日本畜産 ~ 豚が走ったり遊んだり?おいしい豚肉生産の秘密に迫る

豚と遊ぶ小林さん

豚舎に足を踏み入れた途端、豚たちが「なんだなんだ」「誰が来たんだ」とばかりに集まってきました。キラキラと輝くつぶらな瞳に見つめられ、保育所や小学校低学年の参観日を思い出します。

「『ここの豚は人懐っこいですね』と、よく驚かれるんですよ」
そう言いながら案内してくれたのは、日本畜産株式会社 瀬戸牧場 生産事業本部長の小林太一(こばやし たいち)さんです。

小林さんがひょいと柵を乗り越え、飼育スペースに腰を下ろすと、豚たちは「遊ぼう」「遊ぼう」とでも言うように寄ってきました。小林さんが走ると、後をついて豚たちも走ります。

しっかりとついた筋肉と、臭みがなくとろける脂が特徴の瀬戸牧場の豚肉は、「瀬戸のもち豚」のブランド名で販売されています。どのようにしてこの肉を生産しているのか、小林さんの話を聞いてきました。

記載されている内容は、2026年6月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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日本畜産株式会社とは

日本畜産瀬戸牧場の入り口看板
日本畜産瀬戸牧場の入り口看板

日本畜産株式会社は、1963年に小林さんの祖父が創業した会社です。現在は父の茂之さんが社長を務めています。豚の他、牛や鶏を生産していたこともありましたが、20年ほど前から豚だけに専念するようになりました。

瀬戸牧場があるのは瀬戸町地頭分。閑静な環境で豚たちはのびのびと育っている
瀬戸牧場があるのは瀬戸町地頭分。閑静な環境で豚たちはのびのびと育っている

飼育スペースは一般の養豚場の2〜3倍も広くとり、高低差を作って豚が上ったり下りたりできるようにしています。十分な運動をする豚たちには、ほど良い筋肉が付くのです。

子豚の繁殖も自社で手掛ける(写真提供:瀬戸牧場)
子豚の繁殖も自社で手掛ける(写真提供:瀬戸牧場)

通常、肉の価格は卸売市場で決められます。手塩にかけて飼育しても価格を自分たちで決められない仕組みに、茂之さんは疑問を持ちました。そこで、自社の加工場を作り、繁殖から飼育、加工、販売までの全てを自分たちで行うようにしたのです。

臭みのないメスの豚だけが「瀬戸のもち豚 せと姫」となる。生産から加工、販売まで一貫して行っているからこそ提供できる、こだわりの精肉だ(写真提供:瀬戸牧場)
臭みのないメスの豚だけが「瀬戸のもち豚 せと姫」となる。生産から加工、販売まで一貫して行っているからこそ提供できる、こだわりの精肉だ(写真提供:瀬戸牧場)

現在、日本畜産の社員数はおよそ150人。そのうち6人が、瀬戸牧場で豚の飼育に関わっています。

好奇心旺盛で遊び好きな豚
好奇心旺盛で遊び好きな豚

加工場では精肉にするだけではなく、ハムやソーセージなどの加工品も製造しています。

日本畜産のハムやソーセージなど(写真提供:瀬戸牧場)
日本畜産のハムやソーセージなど(写真提供:瀬戸牧場)

その味は折り紙つきです。ハムやソーセージなど5品は、2022年度にドイツ食肉連盟主催の「食肉産業機械国際見本市(IFFA)加工品品質コンテスト」で、満点合格の「金賞」を受賞。さらに「福山ブランド」には、「瀬戸のもち豚せと姫」(2017年認定)、「瀬戸のもち豚ポークジャーキー」(2021年認定)、「瀬戸のもち豚燻製ポークジャーキー」の3品が、認定・登録されています。

日本畜産のお肉を購入できる場所
日本畜産のお肉を使っている飲食店

留学と就職、そして家業へ

小林太一さん

瀬戸牧場の生産事業本部長である小林太一さんは、42歳(2026年現在)。SNSでは「豚飼い日本代表」を名乗っています。しかし、すんなりと家業を継いだわけではありません。

音楽や映画などのアートを学ぶため、小林さんは20歳でアメリカに留学しました。大学を卒業して帰国したのは、夏でした。
「それから就職活動を始めました。海外で学んだキャリアを生かした仕事がしたいと思っていましたが、新卒の採用活動はほぼ終わっていたんです」と小林さん。

就職先は、海外経験とは関係のない九州のラーメン店でした。しかし、1日に20時間も働き、休みは月に2〜3回ということも珍しくないハードな環境で、心身を壊していきました。3年ほど働いた小林さんは「もう無理だ、帰らせてほしい」と家族にSOSを出します。そして、社長である父親に言われるまま家業に入り、瀬戸牧場の仕事を担当することになりました。

豚と向き合った日々

小林さん

自分の中に挫折感がありました。この仕事しか残されていない、これができなければもう生きていけない、という感じ。体はボロボロだったけど、ボロボロになっていくのは自分にとって好都合だと思っていたんです。毎日やっても、何時までやっても全然つらいと思わなかった。なんかのネジが飛んでいましたね」

その時28歳だった小林さんは、瀬戸牧場の中で最も若い社員。「おじいちゃん」くらいの他の社員は、小林さんに何も教えようとしませんでした。唯一、父親だけがぽつりぽつりと仕事を教えてくれましたが、それも毎朝6時から1〜2時間だけ。社長として会社全体を取り仕切っており、牧場を離れなければならなかったからです。

「豚と正面から向き合っている人は、多分一人もいませんでした。『放し飼い』をうたっていましたが、実際には『放置』に近い状態でした。その頃の豚は、あまりおいしくなかったと思います」

半年ほど経った頃、小林さんは自分に向けられる豚の視線を感じました

「それで、何かしてあげんといけん、と思い始めたものの、何をしていいか分からない。自分がこうしてあげたい、という気持ちが芽生えたのは、1年くらい経った頃です」

飼育スペースには、間伐材のウッドチップを深さ1mほどに敷き詰めている。微生物の働きで糞尿はすぐに分解されるため、臭いはあまりしない。清潔な環境が豚のストレスを少なくしている
飼育スペースには、間伐材のウッドチップを深さ1mほどに敷き詰めている。微生物の働きで糞尿はすぐに分解されるため、臭いはあまりしない。清潔な環境が豚のストレスを少なくしている

豚のために変えたこと

小林さんは少しずつ、豚にしたいことを実行していきました。例えば、豚舎の清掃をこまめにする、養豚の勉強会に行く、豚の体温を測る、分娩や発情をコントロールする目的でのホルモン剤投与をやめる、といったことです。

「それまで誰も豚の体温を測っていなかったんです。測ってみて初めて『こういう状態の豚は熱があるんだ』と理解しました。豚の平熱は37度。熱があると41度くらいになります。豚は汗腺がないので、熱がこもってしまうんですよ。熱のある豚がいれば、ペットボトルの氷を与えたり水をかけたりして冷やしました」

やがて、瀬戸牧場には若いスタッフが入り始め、世代交代が進みます。現在の瀬戸牧場のスタッフは20代〜40代です。

豚は泥遊びが大好き。汗腺を持たないため、体を泥で覆って冷やす
豚は泥遊びが大好き。汗腺を持たないため、体を泥で覆って冷やす

豚の反応を見ながら餌を工夫

小林さんの手から与えられる餌を、うれしそうに食べる豚
小林さんの手から与えられる餌を、うれしそうに食べる豚

養豚の現場では、トウモロコシを主原料とした配合飼料を食べさせるところが多いそうです。しかし、瀬戸牧場ではこの2〜3年、ほぼ独自に作った餌を使っています。

「主に与えているのは、パンと大豆かす、大麦、ビタミンとアミノ酸を混ぜて乾燥させた餌です。パンを食べると、赤身の肉に脂が入って霜降りになるんです。ただし、お母さん豚だけは、栄養バランスを考えて配合飼料にしています。ゆくゆくは、こちらも自分たちで作った餌にしていきたいですね」

パンと大豆かす、大麦を使った餌
パンと大豆かす、大麦を使った餌

餌にはもう1種類、甘酒のような液体状のものもあります。

「今与えているのは、乳酸菌で発酵させたものです。焼酎に使う黒麹(くろこうじ)菌を使っていたこともありますが、おなかを壊す豚もいたので、乳酸菌に切り替えました」

乳酸発酵で作った液体状の餌(写真提供:瀬戸牧場)
乳酸発酵で作った液体状の餌(写真提供:瀬戸牧場)

かつては餌として、産業廃棄物である食品残渣を多く使っていました。コストを下げるためと廃棄物のリユースのためです。しかし、安全な食べ物を吟味して与えたいと感じた小林さんは、食品残渣の割合を減らしていっています。
「餌に関しては、臨機応変に対応していこうと思っているんです。今はこれがベストだと思っていますが、他にいい選択肢があれば、また変えていくつもりです。豚たちはすごく正直なリアクションをくれるので、楽しいんですよ。『そうか、これ好きかぁ』みたいなね」

加工の工夫

福山ブランドにも認定されているポークジャーキー(写真提供:瀬戸牧場)
福山ブランドにも認定されているポークジャーキー(写真提供:瀬戸牧場)

子豚は、生まれた時は1.5kgほどですが、生後半年で120kgほどに成長します。この頃が出荷のタイミングです。月に200頭ほどを屠畜場(とちくじょう)へ送り、その後、引野町の加工場へ運びます。多くの屠畜場では皮をはがしますが、皮つきの方が保湿性が高く、鮮度を保てます。そのため日本畜産では、皮つき処理ができる兵庫県の屠畜場を選んでいるそうです。

加工場では豚を切り分けてスライスして、私たちに馴染みのある「お肉」の形にします。また、ベーコンやハムなどは、「無塩せき」で製造しています。

「無塩せき」とは、ハムやソーセージなどの加工肉を作る時に、亜硝酸ナトリウムなどの発色剤を使わずに塩漬けする方法です。

「アニマルウェルフェア」ではない、豚との関係

豚と遊ぶ小林さん。豚の体調管理のためにも触れ合いは大切な時間
豚と遊ぶ小林さん。豚の体調管理のためにも触れ合いは大切な時間

2026年春、アニマルウェルフェア(動物福祉)とフードリテラシー(環境や食文化などを含めた食に関するスキル)の向上を目的とした発信活動を行う団体、ラグふくやまが設立されました。小林さんもメンバーの一人です。

「でも実は『アニマルウェルフェアが大事だからやるんだ』と思ったことは一度もありません。僕はこの仕事を始めて、豚に救われたと思っているんです。だから『豚がかわいそう』とか『守ってあげたい』という気持ちはありません。僕にとって豚は神様みたいなものです。豚が快適に過ごせる環境を作りたい。そういう自然な気持ちがあるだけなんです。

もちろん、豚は肉になるために生まれてきているし、僕も食べます。でも、食べる人のためというより、本当に豚のためにやっているんですね。その点で他のメンバーとは、少し違う立ち位置にいるんじゃないかなという気がしています」

小林さんが走ると豚がとことことついて行く
小林さんが走ると豚がとことことついて行く

飼育スペースで、豚たちはおしゃべりしているような声を出していました。

豚は歌も歌うんですよ。母豚がお乳をやる時に、歌で呼ぶと子豚が寄ってくるんです。授乳中も、母豚は子豚をあやすように歌っています」

新たな一歩、タコスの開発

「生産者が立つ飲食店というか、自分たちの作ったものを直接お客さまに提供できる場所を作っていこうと考えています。3年くらい前から、タコスの開発を始めました。留学時代に毎日食べていたタコスは、豚肉を使っていたな、と思い出したんです。メキシコ移民の多い町だったので、安く食べられるものはタコスだったんです」

ちょうど全国で、タコスを出す店が増え始めた頃でした。タコスに使う野菜も自分たちで栽培し、トルティーヤもトウモロコシから手作りしました。

「おいしいタコスを目指して作ってきて、『あ、これ、グルテンフリーだな』と気づきました。小麦アレルギーのある人も一緒に食べられるという、付加価値もできました」

現在、トンタコスの名前で、積極的にイベント出店を行っています。

「今後はキッチンカーで、もっといろいろなところに出られればいいなと思っています。ゆくゆくは実店舗も構えたいですね」

イベントで販売したタコス(画像提供:瀬戸牧場)
イベントで販売したタコス(画像提供:瀬戸牧場)

生産者としての新たな覚悟

子豚と小林さん(写真提供:瀬戸牧場)
子豚と小林さん(写真提供:瀬戸牧場)

「現在の飼育数は1,500頭ほどです。以前はもっと多かったのですが、ここ数年で意識的に減らしてきました。多く生産しても売れなければだめですから、売れる分だけ生産するようにしてきたんです。

でも、2025年末くらいから気持ちが変わってきて、今は少しずつ増やし始めています。中東情勢の変化で、将来、食糧が足りなくなる可能性を否定できなくなりました。僕たちのように食料を作れる会社が生産を続けていかないと、日本人の食生活が不安定になるかもしれません。

幸い、餌はほぼ国産なので、安定しています。生産者として、何ができるのかを考えていきたいんです」

取材を終え、しゃぶしゃぶ用の「瀬戸のもち豚 せと姫」と「豚の干し肉」を買って帰りました。しゃぶしゃぶはやわらかくとろけるよう。干し肉は旨味が口の中にふわりと広がり、手が止まりません。小林さんの言葉を反芻(はんすう)しながら、お肉を噛みしめました。

日本畜産株式会社瀬戸牧場のデータ

瀬戸のもち豚
団体名日本畜産株式会社瀬戸牧場
業種・直営牧場での生産(豚)
・精肉販売(卸し、ネット販売)
・食肉加工(ハムやベーコンなど)、
・惣菜加工(素材にこだわった手作りのチルド惣菜)
代表者名小林 茂之
設立年1963年
住所福山市瀬戸町地頭分540
連絡先電話 084-946-6800
ホームページ日本畜産株式会社

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山口ちゆき
山口 ちゆき
Webライター。夫と息子2人の4人家族。毎日どんなごはんを食べようかと考えている食いしんぼうです。お菓子作りと読書が好き。

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