1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から30年が経ちました。令和6年能登半島地震の被災地は、いまだ復興の途中です。
南海トラフ地震や、突然の台風など、いつ何が起きるかわかりません。災害が起きにくいといわれている福山に住む私たちも、備えておく必要があります。
2025年2月7日から8日にかけて、今季最強といわれる寒波が襲来するなか、啓文社 BOOKS PLUS 緑町で防災を考えるイベントが開催されました。
福山市立大学と福山市の寝具メーカーであるイシケン株式会社、そして株式会社啓文社が手を携えたイベントのようすをレポートします。
記載されている内容は、2025年3月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
「みんなで防災を考えよう」とは?

「みんなで防災を考えよう」は、福山市立大学の学生たちがシュラフを着用して本屋に泊まる産学連携イベントです。
参加者を募集したところ、5組10人があっという間に集まったそうです。
啓文社 BOOKS PLUS 緑町のカフェスペース周辺に並べられた防災関連の本が、気分を盛り上げます。


イベント中、書店の本はすべて自由に読めることになっています。立ち読み、座り読み、ごろ寝読みし放題です。
福山市立大学総務課から、非常食についての説明がありました。
お湯のない避難所での生活を想定して、水で戻したカップ麺を食べてみようとの企画です。


カップ麺を戻すための目安時間は警視庁のサイト、水でカップ麺を作ってみたを参考にしたそうです。どのような味なのか、気になりますね。
今回は、大学附属図書館に置いてほしい本を学生自身が選べる「学生選書」も同時に実施しました。学生たちに人気の企画とのコラボレーションとあって、ワクワク感が高まります。

本屋に泊まる

2014年にジュンク堂書店プレスセンター店(東京都千代田区)がおこなった「ジュンク堂に住んでみるモニターツアー」には応募者が殺到し、なんと933倍の倍率となりました。以降、各地でおこなわれる「本屋に泊まる」イベントは、倍率数十倍となることも珍しくありません。
啓文社の井上剛(いのうえ つよし)さんは、阪神・淡路大震災のとき新大阪駅近くに住んでいました。スーパーマーケットからは1週間くらい食料品が消え、当時勤務していた飲食店も営業できない状態が続いたそうです。
福山ではこれまであまり大きな災害は起きていないけれど、ぜひ防災について考えてほしいと力強いあいさつがありました。

本屋に泊まるイベントの先駆者であるジュンク堂書店からも、広島駅前店 店長の三浦明子(みうら あきこ)さんが駆けつけました。
広島駅前店では、2024年11月に中国地方では初めてとなる本屋に泊まるイベントを実施しています。一般募集で集まった4組8人の参加者がキャンプ用の椅子や寝袋持参で、1冊の本をじっくり読んだり、買って帰る本を吟味するために何十冊も目を通したりと、思い思いに過ごすようすが印象的だったそうです。
クリオネのようなシュラフ

まるでクリオネのような見た目が印象的な「ZUBORAシュラフ」は、福山市内にある寝具メーカー、イシケン株式会社が開発した寝袋です。
2024年秋のクラウドファンディングでは、目標の10倍近くの金額を集めました。
ZUBORAシュラフはもちろん寝袋として使えるのですが、裾をあげればベンチコートのようにも使えて「着たまま何でもできる」ことが大きな特徴です。内側についたアジャスターで、身長にあわせて裾の長さを調節できます。
イシケン株式会社の強みは、自社開発の人工羽毛。
猛威をふるった鳥インフルエンザの影響で羽毛の入手が困難になったことをきっかけに、5年かけて人工羽毛を開発しました。
ほこりが出にくく、アレルギーのある人にも使えること、丸洗いできることなど、優れた点がいくつもあります。
この人工羽毛を寝具だけでなく寝袋に応用し、さらにさまざまな場所で活動的に使えるようにした商品がZUBORAシュラフです。

「フェーズフリー」とは、日常時と非常時の境界なく、どちらでも活用できる商品やサービスを提供する新しい防災の考え方です。このZUBORAシュラフもフェーズフリー視点で開発されており、日常の場でも非日常の場でも、どちらでも暖かく眠れるようにと作られています。
「みなさんが非日常のなかでこのZUBORAシュラフを使った感想を、ぜひ聞かせてください」
代表取締役の石川倫之(いしかわともゆき)さんは、にこやかに、しかし熱く語りました。
防災に関するミニ講義

都市経営学部 宮前良平(みやまえ りょうへい)先生の映像によるミニ講義もありました。宮前先生の専門は災害心理学です。
ミニ講義の内容は、次のようなものでした。
- 福山でも、南海トラフ地震では最大震度6強、直下型地震では最大震度7が予想される
- その際、福山市内では半数近くの家が壊れる可能性がある
- 避難所生活での困りごとや昨今の防災の考え方の紹介
- 災害の発生を防ぐ「防災」ではなく、災害の被害を減らす「減災」が重要
- そのためには「知ること、経験すること、行動すること」
まさに、今回のイベントのような「経験」が重要であることを伝える講義でした。
参加した学生たちのようす

イベントに参加した5組10人の学生たちは、さまざまな意気込みを持って集まっていました。
教育学部1年の川西陽菜乃(かわにし ひなの)さんは、北海道出身。
「本屋に泊まれるなんてめったにできないので、大学からのメールを見てすぐに申し込みました!デジタルデトックスもしたいです」
教育学部2年の大川巧人(おおかわ たくと)さんは、なんとイベント中に20歳の誕生日を迎えるのだと教えてくれました。
「忘れられない誕生日になりそうです。普段は電子書籍を読むことが多いのですが、紙の本をたくさん読みたい。寝袋にも興味があります」
ミニ講義をしてくれた宮前先生のゼミの3年生、前田歩(まえだ あゆむ)さんと西條魁人(さいじょう かいと)さんの2人も参加しています。
「僕たちは岡山県倉敷市の出身で、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)を経験しています。防災は僕たちにとって、避けては通れないテーマです。
僕が特に興味を持っているのは被災地での睡眠です。このイベントはまさに、自分の体で非常時の睡眠を体験できる絶好の機会。これからどのような研究を組み立てるか、今日の体験を元に考える予定です」(前田さん)
「今日は前田くんの研究のヒントになればと参加しました。あの豪雨の当時、僕は中学生でした。泥の中から見つかった写真をきれいに洗って被災者に返す、写真洗浄のボランティアに参加した経験があります。卒業研究として、このようなボランティア活動から被災者が何を感じたのかを聞き取ってみたいと考えています」(西條さん)
一通りの説明や講義などが終わると、自由時間です。
学生たちは、まずは実際にシュラフを着てみました。


「軽い!着てみた印象はほぼダウンコートですね。とても温かいです。少し動くと暑いくらい」
誰でも着られるようにと、ZUBORAシュラフはレギュラーサイズとジュニアサイズの2サイズ展開です。しかし、背の高い男子学生にとっては、レギュラーサイズでも少し袖が短いようでした。

「丈は問題ないけど、できれば袖はもう少し長いともっと快適かも」
「でも、想像していた2倍くらい温かいなぁ」
袖は作業や洗い物の際に邪魔にならないようにと、あえて短めに作られているそうです。しかし、コートとして使うには短く感じる、との意見も石川社長はしっかりと受け止めていました。
続いて学生たちは店内を回って、思い思いに本を探します。



選んだ本をさっそく読みふけっていました。


こちらでは、カップ麺に挑戦しています。

水を入れて20分待ちました。麺はどのような具合でしょうか。

「あれっ、混ざ、らない?」
お湯を入れて蓋をすると蒸気がカップの中に満ちますが、水だとそうはいきません。水から少し浮いていた麺の最上部や具が、戻りきっていないようです。
「でも、水に浸かっていたところは十分に軟らかいですよ。おいしい!」
カップ焼きそばも同様でした。警視庁サイトでの説明よりも少し長めに時間をおいて、麺のようすを観察しています。

「少し固いところと軟らかいところがありますが、アクセントだと考えればおもしろい食感です。これはこれで良いですね」
啓文社は本だけでなく、コーヒーにも力を入れています。コーヒーを手に語り合う場面もありました。

「これは湊かなえさんの『告白』をイメージしたオリジナルコーヒーです。白地に赤い文字が書かれたパッケージは、作品世界を表していますよ」
「あ!なるほど!だから白と赤!」
井上さんの説明と納得している人の話を聞いて、告白を読んだことのない学生が興味を持ったようすでした。
「告白ならお店にあるんじゃない?今から読んでみたら」
「そうか!探してきます!」
このやりとりは、本屋に泊まるからこそですね。

午後10時に書店が閉店すると、店内エリアにもシュラフで出られるようになりました。
いったん、全員でシュラフを着て再集合します。
これからたっぷり本を読むぞと学生たちが意気込みます。

学生たちの感想
イベントを終えて、学生たちは何を感じたのでしょうか。
集まった感想から、一部を抜粋・要約します。
- イベント中に読んだ本が、本当にほんとうに、おもしろかった
- 他の参加者から、自分では手に取らないような本の話を聞けたのは興味深かった
- じっくりと中身を読んだうえで本を選べたのが良かった。普段の選書では中身をじっくり読むことは難しい。もっといろいろな人が参加できれば、今まで図書館になかった系統の本が選書できる
- 初めて顔を合わせる人と慣れない場所で一晩泊まる感覚や、普段当たり前にあるお湯や衛生用品がないことの感覚を体験できた
- 睡眠時のプライバシー確保の重要性についての理解が深まった
- 被災地での睡眠の難しさについて体験でき、非常に有益な機会となった。健康と密接に関わる被災地での睡眠について、これからしっかり考えたい
- 寒さが厳しいタイミングだったので、ZUBORAシュラフの暖かさを身をもって体験できた
- 水で戻したカップ麺を寒さに震えながら食べた。お湯で戻したカップ麺とは感じが違う。みんな一度経験しておくとよい
- 被災したときに全員が必要ではないもの(生理用品やコンタクトなど)について考えるきっかけになった。自分もコンタクトレンズを使っているが、このイベントを経て備えとしてメガネを持ち歩くようになった
- 忘れられない思い出になった
おわりに

地元企業の開発したシュラフを着て本屋に泊まり、防災について考えた一晩は、学生たちにとって貴重な経験となったようです。
新しい本との出会いがあり、新しい考え方との出会いがありました。
減災にとって大切なのは「知ること、経験すること、行動すること」。
いつ来るかもしれない災害に対して、筆者も一歩だけ、前に進んで考えられた気がします。
みんなで防災を考えようのデータ

名前 | みんなで防災を考えよう |
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期日 | 2025年2月7日午後7時~8日午前8時 |
場所 | 啓文社 BOOKS PLUS 緑町(福山市緑町1-30 みどり町モール内) |
参加費用(税込) | 参加費無料 |
ホームページ | 福山市立大学 |