令和4年10月30日(日)、広島県福山市の福山城下で子どもたちへ向けたイベント「福山温故知新ーGood old new faceー」が開催されました。
温故知新(おんこちしん)は、訓読みでは「ふるきをたずねてあたらしきをしる」と読む、論語が由来の言葉です。
過去にあったものごとを学び、そこからあたらしい知識や見解をえること。
先人たちの教えから、あらたな解釈を見つけだすこと。
このイベントではいったいどんな発見があるのでしょうか。
さわやかな秋晴れの青空の下、大盛況だったイベントのようすを体験をまじえて紹介していきます。
記載されている内容は、2022年12月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
福山温故知新ーGood old new faceーとは
主催は福山伏見町商店会。
会場は福山城のふもと、JR福山駅の北口を出てすぐ目の前にある福山城公園噴水広場です。
福山城築城400年記念事業の福山城400年博のひとつで、『こどもたちに、福山・備後エリアの“技”や“魅力”を伝える祭典』として開催されました。
福山・備後エリアの素晴らしい技術と背景(ストーリー)をもった方々に、現代のライフスタイルや価値観により沿った形で表現やワークショップを行っていただき、産業やローカルの魅了を再発見できるイベントです。
福山温故知新ーGood old new faceー
3つのイベントを通して古き良き技を親しみやすい形で伝えていくことで、次世代の感性を育み、誇りを感じられる・愛着を持ってもらえる街を目指しています。
主な内容は、産業ワークショップと瀬戸内ブイヤベースマルシェです。
この記事では産業ワークショップでの体験をメインにレポートします。
ワクワクがいっぱい。産業ワークショップ
産業ワークショップでは、以下の9店舗が出店。
筆者もいくつか体験させてもらいました。
活版印刷でレトロなカードづくり。活版カムパネルラ
活版印刷(かっぱんいんさつ)とは、活字を1文字ずつ並べて組み合わせた版(活字組版)を作り、それに塗料を塗って印刷すること。
日本には16世紀末ごろに伝わり、幕末から明治にかけて定着していき、印刷方法の主流として50年ほど前まで長く使われてきました。
どんな作業でどんなふうに仕上がるのか、まったくの未知の世界でワクワクです。
まず、印刷したい言葉の活字を自分でピンセットでつまんで集めます。
その活字をスタッフのかたが版に並べます。
次に、好きな色のカード選び。
そして版をセットしてもらい、自分でレバーを上げ下げして、ローラーのインクを版に付けていきます。
1枚目はスタッフのかたが見本として作ってくれました。
2枚目からは自分で挑戦。
レバーをぐいっと下げて、カードと版をギュッと密着させて印刷。
うまくできたかドキドキ。
ハートだと思っていた模様が、バラの花びらに変身しました。
チカラ加減で仕上がりにインクの濃淡ができるところや、印刷面のかすかなへこみに、なんともいえないあじわいを感じます。
新しい印刷技術により、今はもう商業印刷の役目を終えてしまった活版印刷ですが、そのレトロな魅力にファンが今でも大勢いるのだそう。
広島県尾道市にある活版カムパネルラの店舗でも、カードやノートなどへの印刷が体験できます。(紹介したものはイベント用)
▼缶バッチづくりも子どもたちに大人気。
好きな絵を描き、自分だけの作品を作ります。
自分のセンスが形になっていくのはワクワクしますね。
楽しいデザインの世界。Ce~no(せーの)
Ce~no(せーの)では文房具のデザインを体験。
表紙と中の紙を選んで、メモ帳やノートが作れます。
筆者はメモ帳を作らせてもらうことに。
カラフルな表紙や用紙たちに心がときめきます。
どんな組み合わせにしようかな。
▼ノートの中身は罫線だけでなくダイアリーなどのいろいろな種類が。
女子に大人気。たくさんの人でにぎわっていました。
選んだものをトレイに載せて、列に並びます。
スタッフのかたにリングを通す穴をあけてもらいましょう。
まずはセットして…。
レバーをぐいっと下げ、サクっと貫通。
「たとえば、この穴をあける機械。
古い機械でも、今でも楽しめるものはけっこうたくさんあります。
子どもたちにも、身近なものでのモノづくりをもっと楽しんでもらいたい」
とスタッフのかたは話します。
手づくりのメモ帳、今までに買ったどんなメモ帳よりも愛着がわきました。
もったいなくて使えない…。
いや、せっかくなので大事に使います。
取材の翌日がハロウィンだったので、かわいいコスプレの子どもたちが大勢いました。
自分の好みのものが作れることに、子どもたちも興味しんしん。
このノート・メモ帳づくりは、広島県府中市にあるデザイン・印刷会社「(有)コトブキ印刷」でも体験できます。
Ce~no(せーの)はコトブキ印刷の、スクリーン印刷体験のワークショップ部門です。
スクリーン印刷とは、Tシャツや布バッグなどに文字や画像をプリントするもの。
チームのオリジナルTシャツとかを作るのも楽しそうですね。
気軽にデザインの創意工夫と手づくりのワクワクを体験できそうです。
和紙でできたデニム色のカードと、星や月のかわいいシールも購入。
素敵な文房具のコレクター欲が止まりません。
宮大工のやりがい。(株)徳岡伝統建築研究所
筆者はとんでもなく手先が不器用ですが、会場の子どもたちと一緒にお箸(はし)づくりに挑戦してみました。
スタッフのかたが鉋(かんな)の持ち方と使い方を、ていねいに説明してくれます。
お箸になる木を専用の台にセットして、鉋をスィーっと手前に引き、台との段差がなくなるまで削っていきました。
ちなみに、西洋では押して使うのだそうです。へぇ~。
チカラ加減がけっこう難しい。
途中で止まってえぐれてしまい、でこぼこが発生。
なめらかになるように慎重に直していきます。
スタッフのかたが新人のころは、鉋の使い方よりもその刃を研ぐ技術の習得のほうが難しくて何か月もかかったそうです。
道具のメンテナンスの大切さがよくわかるエピソードですね。
どうすればうまく削れるか、いろいろと試行錯誤しながらせっせと鉋を引きます。
削り具合をチェックしてもらいながら進めるので安心。
(株)徳岡伝統建築研究所は、宮大工として神社仏閣などの伝統建築にたずさわる会社です。
「やりがいを感じるのは、自分たちが造った建築物を見に行ったとき。
とても感慨深いものがあります」
とスタッフのかた。
▼形ができあがったらサンドペーパーでみがいて、なめらかにしていきます。
最後の仕上げに食用オイルを表面全体になじませて完成。
不器用すぎてちょっと苦労したけど、楽しかった~。
自分で作ったお箸で食べると、ごはんもおいしく感じるから不思議。
今でもほのかにヒノキの香りがして、作った日がまるで昨日のことのように思えます。
隣の席にいた女の子、楽しそうに夢中で作っていたなぁ。
いつかもう一度作ってみたいです。今度はもっと上手に作れるかな。
鍛造の技を残したい。(株)三暁(さんぎょう)
まったく腕力のない筆者ですが、フライパンづくりにも挑戦しました。
コークスで真っ赤になるまで熱した鉄板を鍛造(たんぞう)して作ります。
鍛造とは、金属をたたいて成形する技術のこと。
たたく作業を鍛える(きたえる)というので、鍛えて造るこの技術を鍛造と呼ぶようになったそうです。
作業用のエプロンを着用して、いざ鍛造。
スタッフのかたがセットして支えてくれている、真っ赤な鉄板をたたいて鍛えます。
会場で音が響かないように、金槌(かなづち)の上をゴムのハンマーでトントン。
スタッフのかたが金槌を動かし、たたく位置を誘導してくれます。
トントン。トントン。
非力な筆者でも、徐々に形が整ってきて感動。
熱を加えると金属はやわらかくなるのだと知りました。
両手でチカラをふり絞ってかんばります。
最後の仕上げに、トントントン!
このフライパンづくりは、広島県福山市にある(株)三暁(さんぎょう)で体験できます。
(株)三暁 (さんぎょう)の本業は、ハイテク技術で金属製品を製造している会社。
同じ鉄鋼団地の中にあった「船の錨(いかり)を作る鍛冶屋」が廃業することを知り、福山の伝統産業をすたれさせず技術を残したいという想いでその鉄工所を引き継いだのだそう。
伝統産業の職人さんは高齢化が進み、全国的に後継者不足が問題となっています。
日本の職人さんの手仕事の技術は、先進国のなかでもトップクラスなのだそうです。
「失われた技術は戻ってこない。残していきたい、残さないといけないと思っています。
体験をとおして、大勢の人に気軽に鍛造の楽しさと魅力を知ってもらいたい」
とスタッフのかたは話します。
体験は、男女比では意外と女性の参加が多いのだとか。
取材をした日は子どもの参加も多く、5歳の子も体験してくれたそうです。
楽しい!から始めるモノづくり。DENTO(デント)
イベントの会場となった広場からは、ずっと子どもたちの歓声が響いていました。
その理由は…。
手づくりの木の車でのレース「グラビティーファンレース」。
グラビティとは、重力のこと。
自分で作った車を、重力の勢いで走らせて競うのです。
みんな、もくもくと一生懸命に作ります。
子どもが夢中になっている時の集中力ってすごい。
車が完成したら、いよいよレースに参戦です。
コースは4つ。
スタッフのかたに車を渡して、スタート位置に並べてもらいます。
みんなドキドキしながら見守るなか、スタッフのかたの合図で発車。
ほぼ垂直の傾斜。
重力の勢いでぐんぐん走ります。
いっせいに響く子どもたちの歓声。
みんな自分の車を一生懸命に応援します。
みんな何度もレースに挑戦。
ふと、車の本体の色の違いが気になって、スタッフのかたに聞いてみました。
「それは、木の材質の違いです。
色だけでなく重さも違うので、スピードも変わる。
レースをとおして、そのことに気が付く子もいます」
「この車は、無垢(むく)の木。
ウォールナット・オーク・チェリーといった、高級家具材の『は材』を活用しています。
部屋に置いていて絵になるような、インテリアにもなるような物を目指しました」
無垢の木というのは、自然の木を切り出したまま加工をしていない木材のこと。
体に優しい素材なので子どもにも安心です。
DENTO(デント)は広島県府中市にある、家具を作る会社。
家具といえば府中家具、そう、あの府中です。
「今日の体験で、子どもたちがモノづくりに興味を持ってくれるとうれしい。
いってみれば、リクルートのようなものです」
笑顔が素敵なスタッフのかたが、たくさんお話を聞かせてくれました。
瀬戸内の海の味。瀬戸内ブイヤベースマルシェ
瀬戸内ブイヤベースマルシェでは、以下の8店舗が出店。
- おかず屋ゆきの
- 小料理屋 実(みのり)
- zono kitchen(ゾノ キッチン)
- 太進館(たいしんかん)
- bib espas (ビブ エスパス)
- Mercy,Mercy彷徨うカレー(マーシー,マーシーさまようカレー)
- ラーメンこばやし
- をにくぽん
ブイヤベースとは、魚介類を香味野菜で煮込んだ寄せ鍋料理のこと。
その原型は、南仏の漁師さんが大鍋を使って、獲れたての魚介類を塩で煮込んだものなのだそうです。
この瀬戸内ブイヤベースマルシェでは、瀬戸内で獲れた魚介類の料理がズラリと並びます。
そのなかで、筆者が気になったお店を紹介します。
▼まずはドリンク担当、福山駅前にあるWine shop choisir(ワインショップ ショワジール)。
福山初のワイン醸造所を福山中心部で運営しているのだそう。
▼牡蠣(かき)の炭火焼きが大人気だったzono kitchen(ゾノ キッチン)。
福山駅の近くにあるイタリアンバルのお店です。
アジの南蛮漬けをおみやげに購入。
「味付けが美味しい、魚や野菜によく染みている」と家族が絶賛していました。
ちなみに、福山市内海町のクレセントビーチにあるSUNNY BURGERS(サニーバーガー)は姉妹店なのだそう。
バンズから手づくりしている無添加のフィッシュバーガー、今度はぜひ食べてみたいです。
▼小料理屋 実(みのり)の、鯛めしの焼きおにぎりのだし茶漬け。
香ばしい匂いがただよいます。
福山といえば、鯛めし・鯛茶漬けですよね。
福山駅前にある「リトルセトウチ」のシェアキッチンで毎週金曜に出店しています。
▼海の香りが広がる、太進館(たいしんかん)のカニ汁。
福山市の走島で漁師&民宿を経営しています。
▼鯛出汁香春雨酸辣湯(たいだしかおる はるさめサンラータン)を出すのは、広島県府中市にあるをにくぽん。
お肉料理のお店ですが、瀬戸内ブイヤベースマルシェ用に作ったメニューで参加。
酸辣湯(サンラータン)が大好きな筆者、これを食べずには帰れません。
鯛の出汁と柔らかくて淡白な白身が、味わい深い酸味とマイルドな辛味にすごく合う。
お酢を使わず、白菜の自然発酵で酸味を出しているのだそう。
1日3食、毎日食べたいくらい美味しい酸辣湯(サンラータン)でした。
また食べたいなぁ。
会場にはテーブルとイスのスペースもあり、みんなのんびりと瀬戸内の魚介料理やドリンクを楽しんでいました。
つないでいく
子どもたちが大きくなり、この日の体験を少しずつ忘れていっても。
わくわく楽しかった記憶は種となり、心の中で少しずつ育っていつか花を咲かせるかもしれません。
おもしろかった、もう一度やってみたい。
こういうの好きかも、得意かも。
成長していくなかで自分のこと・自分の適性を知っていくためにも、いろいろな体験をしてみるのはとても大切だと思います。
何か夢中になれるものを見つけたら、そこからは自分の足でどこまでも駆けていくでしょう。
地域の魅力を体感することで、地元愛も育っていきます。
一度は巣立って外の地へ出ても、いつかまた戻りたいと思えるふるさと。
これから生まれてくる子どもたちにも知ってほしい魅力。
すたれさせず、後世に残していきたいふるさとの魅力が、この福山にはたくさんあります。
福山城初代藩主の水野勝成公は、この地の産業の推進に力を注いでいたそうです。
400年先の人々は、いったいどんな生活を送っているのでしょうか。
時代の流れとともにすたれていくもの、あらたにメジャーとなるもの、いろいろと出てくることでしょう。
テクノロジーや生活環境は、立ち止まることなく、めまぐるしく進歩していきます。
先人たちの知恵を享受して、あらたなアイデアや商品・技術を生み出していく。
産業を発展させて、心身ともに豊かさを感じられる街、住み続けたい街をつくる。
何世代にも渡って受け継いできた、熟練の技や美しい伝統を後世につないでいくことも大事にしたい。
おとなたちから、若者たちへ、子どもたちへ。
世代を越えて少しずつ、先人たちから受け継いだバトンを私たちもつないでいきたいですね。
これから先、何百年先もずっと、受け継がれていくことを祈りながら。
おわりに
福山城400年博の一環として開催された、この福山温故知新のイベント。
産業ワークショップや瀬戸内ブイヤベースマルシェだけでなく、福山城の天守で映画「BATMAN BEGINS」の上映もありました。
福山城がある場所が昔こうもり山と呼ばれていたのが由縁です。
新旧の文化の融合、おもしろい取り組みですよね。
福山城の内部は福山城博物館となっていて、エンターテインメント要素たっぷりの展示でおとなも子どもも楽しめるのです。
福山城博物館の最上階、福山城天守はぐるりと一周でき、さまざまな方角の福山の街並みが見られます。
ここからの眺めは本当に最高です。
イベントでの子どもたちの楽しそうなようすや真剣なまなざしを思い出しつつ、たそがれていく福山城を眺めていると、遠い昔からこの地に暮らしてきた先人たちの想いを、かいま見たような気持ちになりました。
築城400年を迎え装いをあらたにした福山城で、ぜひ幻想的な風景を楽しんでくださいね。
なお福山城では2022年12月2日(金) から2023年1月29日(日)まで、「チームラボ 福山城 光の祭」というライトアップのイベントが開催されています。
福山温故知新ーGood old new faceー(令和4年10月30日開催) ~福山城下でつなぐ次世代へのバトンのデータ
名前 | 福山温故知新ーGood old new faceー(令和4年10月30日開催) ~福山城下でつなぐ次世代へのバトン |
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期日 | 令和4年10月30日(日) 午前11時~午後9時 |
場所 | 広島県福山市・福山駅前 |
参加費用(税込) | |
ホームページ | 福山城400年博 - FUKUYAMA CASTLE EXPO 2022 - |