銭湯遊湯(ゆうゆ)~ 大好きな銭湯を守りたい!銭湯とエステサロンの2本柱で挑む経営改革

銭湯遊湯外観

ここの風呂は本当にええ。風呂屋の値段でサウナも付いとるし、大きな風呂は温もりが違う。自宅にも大きな風呂があるけど、ここの風呂の方がええけぇ、毎日、尾道から夫婦で来とるんよ。顔なじみに会えるのも楽しいし」

風呂上がりのお客さんは、目を細めながら銭湯遊湯(ゆうゆ)の魅力を話してくれました。
しかし、全国の銭湯の数は1968年の17,999軒をピークに減少を続け、2025年にはその10分の1以下の1,562軒になっています(全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会調べ)。福山市内でも、現在残る銭湯は2軒だけです。

この銭湯の女将、山本文子(やまもと あやこ)さんに、遊湯の歴史と現状を聞きました。

記載されている内容は、2026年5月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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松永で60年以上続く銭湯

銭湯遊湯 女将 山本文子さん(画像提供:銭湯遊湯)
銭湯遊湯 女将 山本文子さん(画像提供:銭湯遊湯)

「いつからここに銭湯があるのか、私も正確には分からないんです」と文子さんは語ります。

分かっているのは、文子さんのおじいさんが1963年に福山市今津町の銭湯施設を買い取り、「みなと温泉」という名で営業を始めたこと。少なくとも60年以上の歴史があるのです。

文子さんは4人きょうだいの第一子として、この場所で生まれ育ちました。そして、お父さんが銭湯を引き継いだ頃から、仕事の傍ら、銭湯を手伝います。
文子さんが25歳の時、銭湯の大改修を行い、建て替えて今の形になりました。「遊湯」の名は、気軽に遊びに来てほしいと、お父さんがつけたそうです。

2020年にお父さんが亡くなった後、両親と共に20年ほど銭湯の仕事をしていた末弟が後を継ぎます。しかし、2023年にその弟が体調を崩し、家業の今後を家族で話し合いました。

「もともと私も銭湯が大好きでした。でも、銭湯は弟が継いでいましたし、私自身も市内に2軒のエステサロンを開いていて忙しくしていました。けれども母が『やめたくない』と言うのを聞いて、『やっと私の番が来た』と思ったんです」

こうして文子さんは、銭湯の経営も引き受けます。
かつては風呂がない家も多く、銭湯は人々の生活に欠かせないライフラインの一つでした。しかし近年、銭湯を利用する人は減っています。

昨年度も赤字ですね。銭湯の経営は、本当にボランティアですかってくらい大変です。福山市内に2軒だけとなった銭湯のもう1軒も、休業中と聞いています。
お客さんは平日だと平均150人ほどで、週末は200人ほど。季節によっても変わり、しっかり温まりたい冬は増えます。一番多いのは年末年始で、1日に300人ほどです」(以下、かっこ「」内は文子さんの発言)

子どものために始めたエステサロン

ゆうゆエステ松永店は、現在、銭湯遊湯の2階に移転して営業中
ゆうゆエステ松永店は、現在、銭湯遊湯の2階に移転して営業中

文子さんがエステサロンを開業したのは、29歳の時でした。
結婚、妊娠のため、今までの仕事を続けられなくなったからです。

「その少し前に、母が銭湯の2階でエステを始めました。その時『あんたもちょっとやっときなさいよ』と誘われて、なんとなく一緒にエステを学んでいたんです。子どもができて仕事ができないけれど、自分が稼がなければ子どもを育てられない。どうしようと悩んでいた時、そうだ、エステなら身に付けた技術ですぐに始められる!と思って」

文子さんはエステサロンの仕事に打ち込みます。

「子どもが生まれる日まで働いて、生まれてからも2週間くらいで復帰していました。今思うと、自分が一生懸命なことさえもあまり分かっていなかったような気がします。今では、手だけでお客さんの人生を変えられるエステの仕事が大好きで、天職だと思っています」

3年の結婚生活でニ人の子どもを授かりましたが、離婚後も養育費をもらうことはなかったそうです。必死に働く文子さんを支えるため、両親は銭湯の仕事をしながら子どもたちを見てくれました。

「だから、子どもたちは銭湯が大好きなんですよ」

銭湯経営の努力

現在、入浴料金は大人550円
現在、入浴料金は大人550円

多彩なお風呂の他、飲食や休憩スペースなどを併設したスーパー銭湯や健康ランドなどは、利用料金を自由に設定できます。

一方、銭湯は「地域住人の日常生活において保健衛生上必要な一般公衆浴場」と法律で定められていて、入浴料金は都道府県知事が決めています。昨今のように燃料価格が高騰しても、銭湯は入浴料金を上げるわけにいきません。そのため、遊湯ではさまざまな工夫を凝らしています。

燃料を切り替え、人を雇う

ゆうゆ外観

文子さんが社長に就いた時、収支はすでにマイナスでした。経営を立て直すため、文子さんは燃料を切り替えます。

「燃料にしていた重油が高過ぎるので、かつて父が使っていた廃油に切り替えることにしたんです。いろいろな人に『どうしても廃油が欲しいんです』と声を掛け、トラックを買って廃油を集めて回りました。今では、燃料の100%が廃油です」

廃油にもさまざまな種類があります。遊湯で使っているのは、オイル交換後の自動車のエンジンオイルや、造船所で部品を洗った灯油、機械の作動油などです。
これらの廃油を処分するにはお金がかかりますが、遊湯ではそれを逆にお金を出して買い取ります。

「だから、廃油を売ってくださる事業所さんも喜んでくださいます。重油から廃油への切り替えで、燃料費が10分の1になりました」

そして、重油に充てていた費用を、人件費に振り分けました。

「従業員やアルバイトを入れて、母が働く時間を1日3時間くらいに減らしました。母は自由になった時間に、友達と遊んだり運動しに行ったりして楽しんでいます。家族だけでの運営には限界があります。誰もしんどくない仕組みを作るのが、経営者の役目です」

番台に立つお母さんの笑顔も、遊湯の魅力
番台に立つお母さんの笑顔も、遊湯の魅力

父が遺した「暴君ミストサウナ」

遊湯のれん

遊湯の強みの一つが、サウナです。お父さんが独自で作ったミストサウナに、「暴君ミストサウナ」というインパクトのある名前をつけたのは下の弟さんでした。

「お客さんたちも熱いお風呂が好きだったので、父はサウナを作るならとにかく熱くしたかったんだと思うんですよ。自称日本一のミストサウナです」

筆者も体験してみました。
サウナ室の天井からは、ひっきりなしに熱いミストが降り注ぎます。ミストというよりも、小雨です。これまでに経験したことのないタイプのサウナで、あっという間に全身がびしょびしょになりました。ミストか汗か、まったく分かりません。

しばらくじっと座っていると、上からの熱いミストだけでなく、下からも熱が伝わってきます。これは、かなり、暑い。暴君ミストサウナとは、言い得て妙です。結局、サウナ室に置いてある砂時計の砂が落ちきるまで我慢できず、途中で退散しました。

しかし、爽快です。サウナの効果でしょうか、肌がプルプルになり、一気に若返った気がします。また入りたくなるサウナです。

県内唯一のランニングステーション

画像提供:銭湯遊湯
画像提供:銭湯遊湯

ランニングステーション」とは、ランナーが着替えを預けたり、汗を流したりできる拠点のことです。

「例えば皇居の周辺には、ランニングステーションが数多くあり、走りやすい環境が整っています。松永ランニングクラブの会長と相談し、2023年にランニングステーションの仕組みを導入しました。広島県では唯一です。今は月に2回ほど、メンバーが集まって走っています」

松永ランニングクラブには約30人が所属していて、参加できる人が参加できる時に一緒に走っているそうです。
もちろん、個人でランニングステーションとして利用することも可能です。利用者に渡される「ランニング証明書」を提示すれば、松永地域の協賛店舗でサービスが受けられます。

ランニングステーション

本気が伝わるSNS発信

銭湯遊湯のInstagramより
銭湯遊湯のInstagramより

遊湯のInstagramは、一度見たら忘れられないインパクトがあります。東京や大阪などからも、SNSを見た銭湯好きの人たちが訪れるそうです。

「公式Instagramはうちのきょうだいが中心に運営しています。実は結構凝って作っているんですよ。4人きょうだい全員が、銭湯を守ろうと力を合わせています」

銭湯を楽しんでもらうため、さまざまなイベントを企画
銭湯を楽しんでもらうため、さまざまなイベントを企画

オリジナルグッズ販売

オリジナルグッズ

遊湯のオリジナルグッズを作り始めたのも、下の弟さんでした。Tシャツやトートバッグなど、魅力的なグッズが並んでいます。

「最近増えているのはコラボグッズですね。大阪発の銭湯クリエイティブセントウボウズ、尾道の後藤鉱泉所の三者で作った、Tシャツやオリジナルステッカーが話題です」

三者コラボのTシャツ
三者コラボのTシャツ

コラボレーションの依頼は、SNSでのつながりから来ることが多いそうです。

ゆうゆ内観
後藤鉱泉所のサイダーなども扱っている
後藤鉱泉所のサイダーなども扱っている
風呂上がりのサイダーは格別
風呂上がりのサイダーは格別

銭湯を次の世代に残すために

山本文子さん

番台には次々とお客さんが訪れ、さまざまなやりとりが交わされています。お湯から出た人たちは、飲み物やアイスクリームを片手に穏やかな表情で会話を楽しんでいます。自宅の風呂とは違う、銭湯ならではの風景です。

「私の目標は、1日でも長く銭湯を続けること、そして、次世代に銭湯を残すことです。そのために、経営者としてある程度の基盤を作らなくてはと思っています。今はまだ苦しい経営状態ですが、さまざまな工夫で乗り切りたいですね」

文子さんと家族が愛し、守っている銭湯は、人々のライフラインというだけではありません。

銭湯は『明日の元気の応援団』であり、地域の人の居場所です。私の大好きな銭湯で、元気になっていってほしいですね」

筆者もまた、銭湯でゆったりと、明日の活力を蓄えたいと思っています。

銭湯遊湯のデータ

遊湯外観
名前銭湯遊湯
所在地福山市今津町4-8-4
連絡先電話 084‐934‐1003
駐車場あり
30台
開館時間午前10時~午後10時
休館日
月曜日が祝日の時は、翌日火曜日が定休日
入館料(税込)入浴料金
大人  550円
小学生 250円
幼児  150円
支払い方法
  • 現金
  • PayPay・LINE Pay
予約について
タバコ
トイレ
ホームページ銭湯遊湯

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