鶏舎に投げ込んだ草に駆け寄ってきた鶏たちは、元気よく葉っぱをついばみ始めました。その食いっぷりを見ていると、思わず頬が緩みます。
ここは福山市芦田町でおよそ500羽の鶏を平飼いで飼育している、ながみねファームです。
「養鶏は天職ですね。あと40年は続けたいと思っています」
そう語る代表の長嶺充(ながみねみつる)さんは、群馬県出身です。世界90カ国を旅してきた長嶺さんが、なぜ福山で鶏を飼う生き方を選んだのか、じっくりとお話を聞きました。
記載されている内容は、2026年8月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
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ながみねファームが追い求める「自然な卵」
ながみねファームでは「自然な卵」であることを追求しています。それは、「卵という日常食をどう差別化するか」を考えた結果、たどり着いた形でした。
純国産鶏種を平飼いで飼育

日本で採卵用に飼育されている鶏の9割以上は、卵を多く産むように品種改良された外国の品種です。しかし、ながみねファームで飼育する「岡崎おうはん」は、純国産。卵を採るだけでなく肉にもできる、卵肉兼用の品種です。
群れの中には、立派なトサカを持ったオスもいました。卵を採るのなら、メスだけでもいいのでは?
「うちは9割5分がメスで、残りがオスです」と長嶺さん。
「メスだけで飼うよりも、オスがいるほうが群れが安定するんですよ。外敵が入ってきたときも知らせてくれますし。ですからうちの卵は有精卵です」
なるほど。筆者も一応女子なので、メスたちの気持ちが何となくわかりました。
「一つの群れは70羽ほどですね。同じ月齢の鶏を同じ群れで飼っています。以前、大きな鶏舎で200羽くらいにしていたときに、不調和が生まれたり、産卵率に波が出たりしたので。ストレスが少なく暮らせるのは、1群れ100羽以下のようです」(以下、カギカッコ内は長嶺さん)
鶏は飼育方法にもよりますが、生後120〜150日前後で卵を産み始めます。
「この群れは、今、うちで一番若くて90日齢くらい。あと1~2カ月もすれば、卵を産みます」

500日齢を過ぎると産卵率が落ちるので、群れを入れ替え、肉として出荷するそうです。
「でも今は、800日齢の鶏もいます。理由はあとでお話ししますね」
日本の養鶏現場で主流となっている飼育方法は、鶏をケージの中で飼育する「ケージ飼い」です。それに対し、鶏を鶏舎内の地面に放し、自由に運動できる飼い方を「平飼い」といいます。ながみねファームでは全て平飼いにしています。
「ケージ飼いにすれば、単位面積当たり飼育できる数が10倍になるのはわかっているんです。それでも、鶏が自由に動き回れて、日光浴や砂浴びもできる平飼いを選びました」

自家配合発酵飼料とおやつ
最も大きなこだわりは、鶏たちの主食となる餌です。
メインの餌は、穀類やぬかなど10種類の材料を配合して発酵させたもの。穀類の大半は、中国地方で作られた小米と細麦です。お豆腐屋さんから出るおからや、ビールを作ったときの大麦のしぼりかす、ワインのしぼりかすなども、「ぬか」の仲間として活用しているそうです。
「そのほか、動物性タンパク質である魚粉や、かき殻も入れます。東広島市の酒蔵から分けてもらう酒粕も、この子たちは大好きですね。少しアルコールが残っているので、食べすぎると『千鳥足』になるんですよ。
そういった、できれば県内や中国地方で手に入るものをブレンドして、必ず発酵させてから与えています。発酵させるのは、消化吸収を良くするためと、フンの臭いを抑えるためです」

確かに、鶏舎の中にいてもほとんど嫌な臭いがしません。これが発酵パワー…。
これらの餌に慣れさせるため、ながみねファームが導入するのはふ化したばかりのヒヨコです。
「他の養鶏場では、120日齢の大雛(おおびな)を入れるところもあります。小さなヒヨコを育てるのは大変ですが、うちは1日齢のヒヨコから育てます。途中で餌を切り替えると食いつきが悪くなることがあるし、小さいときからこの餌で育てたいんです」
主食だけではなく、季節の野菜や果物も「おやつ」として与えています。
「トマトとかスイカとか里芋とか、だいたいなんでも食べます。知り合いの農家さんから規格外の野菜をもらえるのは、すごく助かりますね。農家さんには代わりにうちの鶏糞堆肥(けいふんたいひ)や規格外の卵をお渡しして、地域内の循環を生んでいます」
長嶺さんにうながされ、鶏舎のそばに生えている草を抜き取って与えてみました。鶏たちがすごい勢いで駆け寄ってきて、一斉につつき始めます。あっという間に、きれいに茎だけとなりました。

手作りの鶏舎
鶏舎は全て、長嶺さんの手作りです。この木箱は何でしょうか。
「産卵箱です。卵を産むときはこの箱に入るんです」

(画像提供:ながみねファーム)
鶏舎の周りの地面には、コンクリートブロックが置いてありました。
「自然に恵まれた環境なので、獣害が深刻です。イタチやハクビシン、アライグマなどもいますが、一番困っているのはキツネですね。キツネは狩りそのものを楽しんでいるようで、群れを全滅させることもあります。
電気柵を設置したり、下を掘って入らないようコンクリートブロックを置いたり、罠を仕掛けたり、いろいろな対策をしています。けれども、網が少し弱くなったところを見つけると、破って入ってくるんです。ひどいときは100羽以上の被害にあったこともあります。
産卵のピークが過ぎている800日齢の鶏たちを残しているのは、少し前に獣の被害にあってしまって、今は数が足りないからなんです」

養蜂
鶏舎の隣には、ミツバチの巣箱もありました。

ミツバチはすべて、自然入居のニホンミツバチです。非加熱・無添加の蜂蜜は、春と秋に採れた分だけを瓶に詰めて出しています。副産物の蜜蠟(みつろう)の加工を担当するのは、長嶺さんの奥さんです。
米作り
米の栽培には、アイガモ農法を取り入れています。
「アイガモ農法の利点は、除草、害虫駆除、土壌改善、施肥、収量向上ができることですね。カラスやタカなどが上から狙ってくるので、それを防ぐために田んぼにテグスを張っています」
稲穂が出る頃まで田んぼで育てたアイガモは、肉として出荷します。
この米粉と卵を使って長嶺さんの奥さんが作る台湾カステラは、イベント出店時の人気商品のひとつです。

ながみねファームの卵
ながみねファームの卵を、買ってみました。


取材時は、6個入りの卵を選びました。


割ってみると、黄身が黄色いのに驚きます。
「うちでは主食が米とか麦なので、基本的に白っぽく薄い色になるんですね。色の濃い野菜を食べさせたときには、卵の色も濃くなります。
うちの卵は臭いも少なめです。卵をゆでると硫黄のような臭いがすることがありますが、それもほとんどないですね」
おすすめの食べ方を聞いてみました。
「『温泉たまご』や『蒸したまご』ですね。せいろで蒸して、天然塩をかけると味わいが違います」
卵かけご飯も目玉焼きもおいしかったですが、次は蒸したまごにも挑戦しようと思います。
ながみねファームの卵は、自動販売機のほか、FUKUYAMAふくふく市やエブリイ駅家店などで購入できます。
養鶏にたどり着くまで

長嶺さんが農林水産省の「認定新規就農者」として認定を受け、ながみねファームを設立したのは2023年のことです。そこに至るまでに、長嶺さんはさまざまな経験をしてきました。
世界を旅した20代から30代

長嶺さんは、1982年に群馬県前橋市で生まれました。
専門学校を卒業後、地元のカメラ店に就職。その後、刺激を求めて上京し、自主制作映画活動にカメラマンとして参加します。
海外にルーツのある人との出会いをきっかけに海外への興味を持った長嶺さんは、2005年に愛知県で開催された万博会場で働きます。その後で訪れた中国での出会いをきっかけに、バックパッカーとして各地を旅するようになりました。
「最初に行った北京からシンガポール、マレーシア、マカオ、香港、そしてまた中国と回りました。その旅で価値観がひっくり返ったんです。
僕は日本で暮らし、食べ物があって住むところがあるのは当たり前だと思っていました。ところが世界では、それは当たり前ではなかった。もっとこの現実を見聞きしなければと思いました」
そこで、中国やインドで働きながら語学を学びます。
「インドの路上には全てがありました。お金持ちの人、浮浪者、修行僧、物乞いをする子ども、牛、牛のフン、生きているのか死んでいるのかわからない人、そのすぐそばにある食べ物や仕立て屋の屋台。まさに『混沌』でした」
もっと見たい、もっと知りたい。長嶺さんが訪れた国は、90カ国になりました。その間、オーストラリアの農園で過ごしたり、本や写真集を出版したり、インターネットの音声配信をしたりと、さまざまなことを経験します。
福山へ移住

長嶺さんに転機が訪れたのは、36歳のとき。高知で個人向けの海外旅行企画事業を立ち上げた頃に出会った女性と結婚し、奥さんの実家がある福山市に越してきたのです。
地域おこし協力隊としてまちづくりや場づくりにかかわったほか、農業系メディアのライターや介護福祉会社での営業職、奥さんの実家の米作りの手伝いなど、複数の活動を並行して進めました。
とくに、ライターの活動を通して出会った魅力的な農家たちの姿は、長嶺さんの印象に強く残ったそうです。
「そのメディアを運営していたのが、その後、竹原市で田万里家を立ち上げた井本喜久さん。取材先には、日本畜産の小林太一さんや、ジンジャーダイヤモンドの中尾圭吾さんなどがいました。農家さんたちはDIYでなんでも作るし、信念を持って農業に向き合っていました」
長嶺さんは2021年に会社を辞め、奥さんの実家の田んぼや山を活用して、本格的に農業を始めました。
「最初は野菜を作ろうと思っていたんです。でも、試しに鶏を数羽飼ってみたら、すごくおもしろくて。少しずつ数を増やしていくうちに、今の形になりました。養鶏を始めて4年ですが、あと40年は続けたい。体が動く限りやりたいですね。あちこちへ行って、さまざまな仕事をして、ついに見つけた天職だと思っています」
旅では、自分で決断し、自分で動くことが普通でした。しかし、会社組織の中では、その「普通」の感覚が足かせになるような気がしたこともあったそうです。
「だから、動物を相手にするとホッとするのかもしれません」

旅は終わっても挑戦はまだ終わらない
あちこちを旅し続けてきた長嶺さんにとって、一つの場所に根を下ろして農業を営むことに抵抗はなかったのでしょうか。
「もう行きたいところは行き尽くしました。群馬出身の僕には、西日本での暮らしも新鮮です。結婚して子どもが生まれたことも、大きな変化でした。
これから挑戦したいのは、農業をサラリーマン以上に稼げる仕事にすることと、近いのにあまり知らなかった場所を観光する『マイクロツーリズム』を楽しむことの二つですね」
2023年に立ち上がったびんご農業女子会にはファシリテーターとして参加し、アニマルウェルフェアを考える「ラグふくやま」を始めるなど、現在も活動の幅を広げています。
「いろいろな経験をしてきたことを、プロデュースやガイドなどの形で人のために役立てたい、と思っているんです。養鶏と並行して、できることをやってみたいですね」

養鶏を軸に、その豊富な経験を人のために生かそうとする長嶺さんのそばには、さまざまな人が集まってくることでしょう。そして、また新たな流れを生むのでしょう。

ながみねファームのデータ

| 団体名 | ながみねファーム |
|---|---|
| 業種 | 養鶏 養蜂 農作物栽培 加工品製造 |
| 代表者名 | 長嶺充 |
| 設立年 | 2023年 |
| 住所 | 福山市芦田町下有地48-8 |
| 連絡先 | 電話 080-8440-6087 |
| ホームページ | ながみねファーム |


























