いま住んでいる地域で、住人を互いにつなぎ、交流をうながす施設や場所、行事がありますか?
その施設がもし銭湯だとしたら、どのような好影響を地域に望めるでしょうか。
東京高円寺の銭湯 小杉湯やその隣のシェアスペース 小杉湯となりは、「まちづくり」という視点を外しても、そのユニークな展開に、近所にあれば立ち寄りたくなる施設です。
またそれらをよく知ると、なるほど銭湯のような地域資源のもつ特質に、にぎわいの核となる要因があると感じられるでしょう。
どちらかというと、役割を終えたと思われていたものが、実はそこにしかない魅力を秘めていることがあります。
隠れた魅力を磨き上げれば、地域の人々は導かれるように行動を起こすことも。
そんなことに興味のあるかたは、お湯が冷めない(話題がホットな)うちに、ここから明日へのヒントを探ってください。
記載されている内容は、2023年10月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
『銭湯から広げるまちづくり』出版記念イベント
令和5年9月14日、福山市鞆町の古民家カフェ ありそろうで、『銭湯から広げるまちづくり: 小杉湯に学ぶ、場と人のつなぎ方』の出版記念イベントが開かれました。
全国各地でおこなわれた出版記念イベントの一環で、今回は主催のコト暮らしや参加者の要望を踏まえたタイトル「銭湯的コミュニティ論〜今ローカルに求められるコミュニティとは?〜」が付けられています。
平日の午後8時から始まったイベントでは、3階の和室を埋めた12名の参加者が車座でゲスト講師、加藤優一(かとう ゆういち)さんの話に聴き入り、まちづくりやコミュニティへの強い関心をうかがわせました。
以下のような内容が、参加者を交えて語られました。
- まちの資源が共通してもつ「銭湯的」なるものがあるとしたら、それは地域にどのような影響をおよぼすか
- それはポストコロナのローカルに求められる、コミュニティ運営にも応用できるか
- 居心地のいいローカル拠点をどのように設計すればいいのか など
ゲスト講師の加藤さんと主催者の長田涼(ながた りょう)さんは出会いは、2018年、高円寺「小杉湯」にさかのぼります。
ここで、お二人のプロフィールを紹介します。
加藤さんの福山市とのつながりでは、OpenA 所属時に、 iti SETOUCHI(令和4年オープン)の設計に携わりました。
同じくOpenA 時代には、広島県三次市のまちづくりを担当し、広島大学跡地のタワーマンション共用部のデザインも手掛けています。
コト暮らし 共同代表
Peatix イベント告知 ⚫︎ゲスト情報
スポーツ大学を卒業後、大手アパレル企業→スポーツイベント会社→IT企業→コミュニティフリーランスを経て、2023年に夫婦で「コト暮らし」を設立し共同代表に就任。コミュニティの専門家として、数多くのコミュニティを支援している。また、2022年に東京から鞆の浦へ家族で移住し、古民家カフェ「ありそろう」の運営を開始。ローカルとオンライン双方の観点から、コミュニティを実践探求している”コミュニティで生きる人“。フォトグラファーとしても活動中。
鞆の浦の目的地となる場を目指す「ありそろう」
今回のイベント会場を紹介します。
令和5年2月、古民家カフェ ありそろうは、営業をはじめたばかり。
地元と外部の人が交わっていくことを目指している、ありそろう。ハンドドリップで淹れたコーヒーや手作りしたお菓子の提供とともに、この場を活用したポップアップイベントなどを開催しています。
事業主のコト暮らし(長田さん夫婦)の望むことだけではなく、地域に求められることとの接点を考えながら場づくりを進めています。
一階のスペースでは、つながりのあるかたとのゆかりの雑貨や、地元に眠っていた古道具の販売をおこなっています。
目につく場所に商品を置くことで、創作活動への応援やまちの課題解決、新しい循環のきっかけにしたいという想いを込めているのです。
ありそろうのロゴマークには、コト暮らしの想いが表されているのではないでしょうか。
「何かありそうな予感」とあるように、偶発性をともなう体験が生まれる場にしていきたいとのこと。
そこで、生まれたお店のキャッチコピーが、「なにか?ありそう!ありそろう」。
そんな体験を実現するために、リアル(オフライン)の場づくりの価値と向き合っていく決意をしたのです。
新刊『銭湯から広げるまちづくり』加藤優一著
イベントの基調トークとして語られたのが、加藤さん初の単著となる新刊『銭湯から広げるまちづくり: 小杉湯に学ぶ、場と人のつなぎ方』につづられたエピソードのいくつか。
令和5年7月26日(ふろの日)に発刊された書籍は、どのような内容なのでしょうか。
新刊の概要 その舞台となった「小杉湯・小杉湯となり」
その名もずばり、杉並区高円寺の小杉湯の隣にあることからネーミングされた「小杉湯となり」。
小杉湯となりでは、銭湯を利用するときのほどよい距離感のなかで、さまざまなライフスタイルを持ち寄り、かつ主体的にかかわりながらそれぞれの居心地を保っています。
その運営は、20~80歳の約50名の世代を越えたメンバーがつとめ、さらに同地域の空き家を活用した拠点づくりまで手がけるようになったのです。
半径500m圏内の地域資源をつなぎ、まち全体を家と捉えた、空間・組織・事業づくりのヒントがつまった一冊。
1日500人が訪れる銭湯「小杉湯」
高円寺駅から徒歩5分。商店街を抜けた住宅街に建つ、人気銭湯「小杉湯」。
建物は神社仏閣かと見紛うばかりの宮造り、屋内の脱衣所には高い格天井が広がっています。
4種類のお風呂があり、熱湯と水風呂に交互に入って自律神経を整える交互浴が人気。
また徹底した掃除により清潔感が保たれ、アメニティも完備されているので、初めてでも気軽に利用可能です。
そうしたこともあって、小杉湯は若い利用客が多く、毎週なにかしらのイベントが開かれ、さらに人々の接点を生んでいます。
一方で高齢者も参加できるヨガ教室などが営業時間前におこなわれ、多世代が共存するシェアスペースのようにも使われています。
シェアスペース「小杉湯となり」の展開
小杉湯の隣の3階建ての建物「小杉湯となり」は、令和5年3月にオープンしました。
お風呂を満喫したあとに食事をしたり、仕事の後に一息入れたり、銭湯利用を延長する感覚でめいめいの暮らしを持ち寄れる、銭湯のある暮らしを体験できる場所をコンセプトにした施設。
いわば銭湯つきシェアスペースです。
現在(令和5年)の運営形態は、平日は会員制シェアスペース、休日は飲食店に。
しかしコロナ禍を経たのちも、それ以前と基本的な使われ方は変わっていません。
銭湯がまちに開かれたお風呂であることにならい、小杉湯となりもまた地域の人々にとって、まちの台所や書斎として身近に利用され親しまれる場となったのです。
豊かなまちづくりの好例 小杉湯となりに学ぶ
トークイベントで語られたことや本書に書かれていることは、銭湯という枠組みを除いても地域で実践できそうな学びが多く含まれています。
それらからピックアップしてみました。
日常「ハレ」のなかの小さな非日常「ケ」を提供する
小杉湯は ケの日のハレの提供を、施設の大切な役割としています。
旅行先などで入る温泉を「ハレ」、日常の家風呂を「ケ」とすれば、小杉湯が想定しているのは「ケの日のハレ」。
日常のなかの小さな非日常、つまり平日のアクセントとなるような幸福感の提供を目指しているのです。
そして「ライバルはスタバ」と公言する小杉湯。
1時間ほどの滞在にワンコインを支払って過ごせるブレークタイム、それは本格コーヒーが楽しめ、かつ居心地のいいカフェが提供しているサービスに近いのかもしれません。
本質的な環境を粛々と守ればイベントにも人が集まる
小杉湯には、銭湯の本質は清潔な空間に気持ちの良いお湯がある環境とする、揺るぎないポリシーがあります。
新しい挑戦に取り組む背後には、まず銭湯の居心地を保ち続ける姿勢があるのです。
そこに誠実に向き合えば、だれにとっても居心地の良い環境を維持できます。
そうすると人が集まり、派生的にイベントも生まれるというわけです。
サイレントコミュニケーションが安心感を生む
小杉湯では、居合わせた人の生活音が屋内で反響して伝わってきます。
そのため直接言葉を交わさずとも、たがいの気配で存在を確認し合うような安心感があるのです。
銭湯の空間的な特性が、サイレントコミュニケーションを生んでいるといえます。
小杉湯となりでは、宿題をする学生の隣に親子が寝そべり、顔なじみの高齢者と銭湯は初めてという若者が同じ食卓を囲むなど、あらゆる人々が交差します。
各スペースに目的をあえてもたせず、話をしたいときに会話ができ、また一人になることも干渉されない環境が確保されているのです。
交流を前提にしないことで心理的な負担を軽くすると、逆に他愛もない世間ばなしでもしたくなりますよね。
地域の資源を守り資源のある暮らしを広げる
地域に根差した銭湯 小杉湯を守るという求心力と、銭湯のある暮らしを広げる 銭湯ぐらしの遠心力。
方向性の異なるそれぞれの強みをかけ合わせることで、銭湯文化の継承や発展だけでなく、暮らしに銭湯を取り入れる人の増加に相乗効果が期待できます。
また個人宅にすべての生活機能を集めず、銭湯の周辺エリア全体を大きな家と見立てて、まちで機能を共有する。
そうすることで生活環境を開き、地域のつながりを生むようになると、「湯・食・住」がつながった風景が立ち現れるのです。
鞆の浦「ありそろう」と高円寺「小杉湯となり」を結ぶ
かつては4軒ほどあった鞆の浦の銭湯は、現在は1軒も残っていないのだそう。
今となっては、宿泊施設の大浴場では満足できず、鞆の浦に暮らす人と、地元の銭湯の湯船に浸かりたいという声は少なからずありそうです。
実際に、その土地で暮らすように旅したいと考える観光客は多く、それに対応したサービスが鞆の浦や福山市街にあります。
鞆の浦を訪れる人の体験も、利便性ばかりを高めた受動的なサービスではなく、より能動的なものが求められています。
そのヒントとなるのが、小杉湯となりの取り組みではないでしょうか。
またそうした時流のなか、ありそろうに行けば、旅を予定調和と感じさせない、地域とのつながりが見つけられるかもしれません。
多様な要望に応じてくれる ありそろう
福山市やその近郊に住む人にとって、鞆の浦は「ハレ」というには距離が近いものの、気ぜわしい「ケ」の生活で溜まったストレスから解き放ってくれる格好の場ではないでしょうか。
朝をゆったり過ごした日でも、少し気分を変えたいと思ったときに、鞆の浦なら構えずに行くことができます。
さて、ありそろうは2020年3月にオープンしてから半年が過ぎ、飲食の他にもあらゆる役割を請け負う施設に変化しています。
飲食、コミュニティ、移住相談、雑貨販売、古道具販売、イベントスペース、コワーキングスペース、観光拠点 など
いまや古民家カフェのイメージではくくれない ありそろうで、気分をリフレッシュして、ヒトやモノとの新たな出会いを見つけてください。
『銭湯から広げるまちづくり』出版記念イベントのデータ
名前 | 『銭湯から広げるまちづくり』出版記念イベント |
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期日 | 令和5年9月14日(木)午後8時~9時30分 |
場所 | 広島県福山市鞆町鞆715 |
参加費用(税込) | |
ホームページ | ありそろう |