広島には働きたい会社がない。だから都会へ出ていく。
そんなふうに考えている若い世代の人もいるかもしれません。
人口が減少すれば地域が衰退していきます。
「その流れを止めるためには、若い世代が働きたいと思える会社や事業の創出が必要だ!」
と、2023年4月から広島県で起業家を育てるために活動を始めた団体が「広島イノベーションベース」です。
「イノベーション」とは、「新しいものを創り出し、あるいは今あるものを新しい方法で創って社会に変化をもたらすこと」。
2023年9月21日(木)、福山では初めてとなる月例会(セミナー)がiti SETOUCHIで開催されました。
およそ40人が参加した月例会のようすを紹介します。
記載されている内容は、2023年11月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
月例会「地方発スタートアップの価値と可能性とは」
今回の講師は、株式会社otta(オッタ)社長の山本文和(やまもと ふみかず)さんです。
講演と意見交換
2014年に広島で創業したオッタは、スマート見守りサービスの開発と運営を手掛ける会社で、現在は福岡市に本社を置いています。
子どもや高齢者がどこに「おった」かという位置情報を保護者のスマートフォンに伝えてくれるオッタのサービスを利用している人は、2023年9月時点全国でおよそ15万人です。
一時期にはさまざまな企業が見守りサービス市場に参入してきましたが、2023年現在では他社はすべて撤退し、競合がいない状態であるとのことでした。
2010年頃、当時ソフトウェア開発の仕事をしていた山本さんは「子どもを対象にした重大犯罪の増加をインターネットを使ったサービスで止められないか」「どのような仕組みなら実現できるか」と考えていました。
犯罪が起きやすいのは放課後、大人の見守りが手薄になる時間の路上です。
それならば、町の中に「見守りスポット」を何か所も整備し、その近くを小型の端末を持った子どもが通ると情報が記録される、「町ぐるみで子どもを見守る」仕組みを作ればよいと考え、ハードとシステムの両面からの開発を進めます。
子どもが毎日持つ端末はできるだけ小さく、電池が切れて記録できなくなることを防ぐために電池寿命は長く、といったさまざまな課題をひとつずつクリアしていきました。
2014年に会社を興しますが、実際にビジネスとして進めていくために必須のステップである「実証実験」に応じてくれる小学校がなかなか見つかりませんでした。
そこからどのようにして協力者を得ていったのか、実証実験によって何がわかり何を変えていったのか、またその後どのように事業を拡大していったのかなどについての話は、およそ1時間におよびました。
他ではなかなか聞けない、さまざまな難関を乗り越えて成功を収めている経営者の話に、参加者たちは熱心に耳を傾けます。
講演後の「パネルディスカッション」と「質疑応答」では、参加者の疑問に山本さんが一つひとつ回答しました。
参加者たちは山本さんから、サービス開発や事業展開などに関する多くのヒントを得たようです。
続いて、「TAVシェア(Take Away Value:自分がセミナーから得た気付きや価値を共有する)」の時間が取られました。
参加者は数人ずつのグループに分かれ、気づきを話し合いました。
そして、グループで出た意見を全体にシェアします。
筆者には、この時間が非常に興味深く感じられました。
立場も経験も年齢も異なる参加者たちが、一流経営者の話をどのように捉え何を感じたかを聞くことで、また新たな視点で山本さんの話を反芻(はんすう)できるからです。
各グループからは次のような意見が発表されました。
- 諦めないことが大切
- 戦略は明快に、戦術はフレキシブルに
- 経営者に必要なのは周囲を巻き込んでいく力
- 何事もやってみないとわからない。実際にやってみて、そこから改良していくプロセスがすごい
- 価値観の違うメンバーを集める勇気に敬服
懇親会
次に、同じ建物内の別の場所に移動して懇親会が開かれました。
参加者たちは食事を楽しみながら名刺を交換し、お互いの事業を紹介しています。
参加者同士の新たなつながりが生まれていきました。
HIBとは?
「広島イノベーションベース(以下、HIB)」とは、どのような団体なのでしょうか。
HIBの目的
地方の衰退を止めるためには、若い世代が働ける場が不可欠となります。
そのために重要になるのは、起業を促進しスタートアップを支援することです。
「起業家が起業家を生み育てる環境を創り、広島県の活性化を推進すること」を目的として、2023年1月にHIBが設立されました。
地域全体で起業を支え広島をアップデートすることを目指して、2023年4月より本格的に稼働を始めたところです。
現在、会員数はおよそ40名。
大学生から50代までの会員が、さまざまな業種から参加しています。
すでに事業を興しさまざまな経験を積んできた起業家たちと、今から起業したい人とが集まる場は、これまであまりありませんでした。
起業家同士の交流の場ができたことは、広島のビジネスに大きな変化をもたらすことでしょう。
HIB代表理事兼運営委員長の吉村公孝(よしむら きみたか)さんは、備後地域の出身です。
広島で起業後、東京に本社を移していますが、広島県全体のビジネスを活性化するためにHIBを立ち上げました。
今までは広島市で開かれていた月例会は、「地元に多くの起業家が育つように」との思いを込めて、今後3か月に1回のペースで福山開催とする予定だそうです。
HIBの活動内容
HIBは会員に対し、4つのコンテンツを提供しています。
月例会
月に1度、著名な経営者や上場経営者を招いて起業家のための講演を実施し、講演の後には、懇親会で交流をはかります。
ラーニング
不定期で開催する、さまざまな講師を招いて実践的な知識を学ぶ場です。
採用のかけ方や資金調達の仕方といった、実践に役立つ内容を取り上げます。
フォーラム
8名程度の少人数グループを作り、月に1度、経営のことや人生のことなどを共有します。
「孤独な存在」である経営者にとって、メンバー同士で悩みを打ち明け合う機会は貴重なもの。
共有した経験が、メンバーの大きな財産となっていきます。
メンタリング
「相談をする後輩経営者(メンティー)」と「相談を受ける先輩経営者(メンター)」のペアを作り、直接学びを得る場です。
他の起業家ネットワークなどとの連携
つながりは、広島県内の起業家だけにとどまりません。
EO
世界規模の起業家ネットワークとしてEO(Entrepreneurs’ Organization:起業家機構)があり、世界61か国に200以上の支部を持っています。
日本国内には15の支部が存在し、900人を超える起業家が所属しています。
中四国地域を拠点としている支部が、EO Setouchiです。
xIB JAPAN
2020年1月にEOメンバーの一人が、故郷の徳島に設立した新しい団体が徳島イノベーションベース(TIB)です。
TIBを皮切りに、全国のEOメンバーが出身県でそれぞれの県のIBを立ち上げていきました。
2023年4月の時点では、全国で17のIBが活動をしています。
各地のIBを統括するのが、xIB JAPANです。
HIBはEOのメソッドを取り入れ各地のIBと連携して、起業家同士が出会い、学び、成長できる場を提供しています。
同時に金融機関や自治体、メディア、大学などとも連携し、すでにある情報ネットワークの活用や学生の育成などを進めています。
広島をアップデート!
福山市周辺からだけではなく、広島市や東広島市など他地域からの参加者も集まって、福山市で初めて開催されたHIBの月例会。
20代の若者から、経験豊富な50代の経営者までが「新しいことに挑戦する」ために集まっているようすを見て、広島が変わっていく瞬間に立ち会っているように感じました。