映画やドラマ、演劇のストーリーを展開させるうえで欠くことのできない役者の芝居(演技)。
しかし、新型コロナウイルス感染症の縮小期以降も、観劇の機会はかなり失われています。
令和4年5月8日(日)より開催中の尾道回遊戯曲「巡る刻(めぐるとき)」は、私たちから遠のいてしまった生の芝居を間近で見ること(体感)ができます。
なおかつ観光(まち歩き)やアートと結びつき、新しいステージ(活用の場)に踏み出したのではないかという感触を得ました。
令和4年4月24日(日)にメディア機関や旅行関係者に向けて公開された、プレスツアーのもようをレポートします。
記載されている内容は、2022年5月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
尾道回遊戯曲「巡る刻(めぐるとき)」とは?
尾道まち歩きツアー 尾道回遊戯曲「巡る刻」は、有限会社啓仁館が主催する観光(まち歩き)と演劇の融合を目指した体感型観劇ツアーです。
制作に当たり、総合プロデュースに本間智美(ほんま ともみ)さん、脚本・演出に仙石桂子(せんごく けいこ)さんを迎え、劇団「オムツかぶれ」の劇団員、四国学院大学の学生が役者として出演しています。
由緒ある神社仏閣や坂道の風情あふれる街並み、ノスタルジックな商店街など、独自の魅力が集積した箱庭的都市・尾道が舞台です。
尾道の魅力を発見する「演劇×アート×デザイン」ツアー
尾道回遊戯曲「巡る刻」を主催、有限会社啓仁館の鈴木生吾(すずき しょうご)社長は、以前から尾道の歴史的資産を活かし、尾道のファンを増やしたいと考えていたそうです。
そしてまちづくりを手がけてきた合同会社mogmog代表の本間智美さんと協働し、令和3年の下旬からツアーの準備を重ねてきました。
総合プロデューサーの本間さんは建築家で、令和3年4月に尾道へ移住してきました。
プロジェクトには全国各地で活躍するアーティストのほか、尾道を拠点に活動するクリエイティブチームの力が結集。
文化的な遺産を活用し、継続的に尾道観光を楽しめる仕組み作りに対する想いによって、尾道の歴史に「演劇×アート×デザイン」を加えた新しい観光スタイルが打ち出され、このたび尾道回遊戯曲「巡る刻」として実現するに至りました。
尾道回遊戯曲「巡る刻」の概要
尾道回遊戯曲「巡る刻」は、尾道旧市街地周辺の歴史をたどり、戯曲を通じて尾道の魅力を発見するツアーです。
・公演時間:約3時間〜3時間30分
・参加費用:6,600円(税込)
尾道回遊戯曲「巡る刻」 2つの特典
尾道回遊戯曲「巡る刻」には、ランチとノベルティの特典がついています。
ツアーを踏破した後にいただく食事は格別でしょう。
2つの特典は以下のものです。
公演後は、Mange Tak Resort Onomichiの屋上で、特製ランチが楽しめます。(内容は季節によって変更する場合あり)
物語の鍵を握る古地図(尾道市文化振興課の西井亨(にしい とおる)さん監修)、ミネラルウォーターを同梱。
「巡る刻」の土台となった四神伝説
「四神相応の地・尾道」という、古代中国にルーツをもつ方位にまつわる考え方があります。
それは大宝山(たいほうざん)、愛宕山(あたごやま)、瑠璃山(るりさん)からなる尾道三山の寺がすべて、尾道水道を隔てた尾道市向島の岩屋山(いわややま)の方角を向いて建てられているという事実が裏付けるものです。
岩屋山は巨石信仰の聖地といわれており、尾道旧市街地一帯を俯瞰(ふかん)でみると、瑠璃山(東)、大宝山(西)、岩屋山(南)、愛宕山(北)という配置になります。
中国の神話で天の四方を司る霊獣を四神といい、尾道の主要な寺はこれにもとづいての設計と考えられることから、「四神相応の地」と呼ばれているのです。
また四神は、東の「青龍(せいりゅう)」、西の「白虎(びゃっこ)」、南の「朱雀(すざく)」、北の「玄武(げんぶ)」に、中央の「黄龍(おうりゅう)」を加え、万物の要素を成す五行説に照らして考えられることもあります。
尾道回遊戯曲 「巡る刻」は四神伝説になぞらえた戯曲を鑑賞することで、点在するパワースポットを線で結び、四神に護られた尾道をツアーを通じて体感する試みでもあります。
「巡る刻」のあらすじ
四神伝説になぞらえて書かれた戯曲のあらすじを説明しましょう。
600年前の尾道。
烏天狗と出逢い、秘かに恋心を抱く阿弥(あみ)。
一方の烏天狗は亡き恋人・おつるに会うために、尾道に伝わる四神伝説・操刻(そうこく)の力を使おうとしていました。
しかし刻の守り神「黄龍」によって記憶を奪われた烏天狗は、異世界に閉じ込められ、それに対し無力な阿弥も、心を傷めて時空をさまようことになります。
時は流れて、現代の尾道へ。
阿弥は「尾道異空観光社」のガイドを務めています。
「刻の玉」を集める異世界ツアーを案内する阿弥に同行した烏天狗は、少しずつ記憶を取り戻し……。
黄龍:四神を司り、刻を自由に操る力を持つ絶対的存在。尾道に眠る「四神の玉」を集めてきた者に、その力を一度だけ授けるという伝説がある。
尾道異空観光社:脈々と刻まれてきた歴史や文化的背景をもとに、「異世界ツアー」を提供している。歴史から派生する「if」の追体験から、尾道の新たな観光資源の創出を担う。
「巡る刻」の登場人物
現代では「尾道異空観光社」で活躍する人気ガイド。かつては女形が得意な能楽のシテ方だった過去も。
実は1200年前、すでに死没していた阿弥は霊魂として時空を超え、当時石工だった烏天狗と出逢います。
人間の頃は元石工だった烏天狗は自分を神だと豪語しますが、周囲からは妖怪だと後ろゆびを指される存在。
かつて操刻の力で玉集めに奔走(ほんそう)するなかで黄龍の逆鱗(げきりん)にふれ、時空に閉じ込められてしまいます。
阿弥と烏天狗、二人の関係がどのように変化していくのか見ものです。
尾道異空観光社がめぐる注目したい観光スポット
ここからは劇中の場面をはさみながら、注目したい観光スポット(戯曲の舞台)を紹介します。
私たち参加者は、ガイドに従って行動をともにすることになりますが、一度、異世界に足を踏み入れると、あとには引き返せません。
千光寺頂上展望台「PEAK」
「尾道市の景観に調和したシンボル空間の形成」をテーマに設計された展望台。
山々のスカイラインを守るため、 山頂に突出することを避け、 細く、 軽い構造体をそなえた橋梁(きょうりょう)型が特長。
木々の上に浮かぶように、奥行きが小さく細長い展望台は、 どこからでも瀬戸内の島々の眺望を楽しめます。
リニューアルオープンしたばかりの頂上展望台「PEAK」では、物語の背景の壮大さを実感できます。
大宝山・千光寺
尾道水道を一望する大宝山の中腹にある千光寺。
ながめの美しい立地から、多くのすぐれた文化人が訪れ、頼山陽(らいさんよう)は「六年重ねて来たる千光寺」と漢詩に詠んでいます。
聖徳太子の御作と伝えられる本尊「千手観世音菩薩(せんじゅかんのんぼさつ)」は、33年に一度の御開帳でしか見ることはできませんが、「火伏(ひぶ)せの観音」として、火難除けにご利益があり、あらゆる願いが成就する観音様としてお参りが絶えません。
阿弥がガイドを務める「異世界ツアー」はいつも好評を博しています。
御袖天満宮(みそでてんまんぐう)
学問の神様・菅原道真公が奉られた神社。
延喜元年(901年)太宰府へ向かう途中、尾道に寄港した道真公は、地元の人たちにふるまわれたごちそうのお礼に、着物の片袖を破り自身の姿を描いて与えました。
命名はその御袖に因(よ)ります。
大林宣彦(おおばやし のぶひこ)監督による映画、尾道3部作の第1作目「転校生」であまりにも有名な55段の石段。
ここでは二人の感情がどう描かれるのでしょう。
愛宕山・西國寺
天平年中(729~749年)に行基菩薩(ぎょうきぼさつ)創建と伝わる、真言宗醍醐派の大本山。
時は天平元年(729年)、行脚の途で尾道に立ち寄られた行基は、加茂明神の霊夢を見て、その御告げからこの地に開山したと言い伝えられています。
僧侶の修行場である伽藍(がらん)の規模は正に「西国一」という意味を込め、西國寺と名付けられました。
瑠璃山・浄土寺
浄土寺は、推古天皇24年(616年)、聖徳太子が開いたとも伝えられています。
徳治元年(1306年)、真言律宗系の僧で叡尊(えいそん)の弟子・定証(じょうしょう)が荒廃していた寺を再興しました。
現存する国宝の本堂・多宝塔、重要文化財の阿弥陀堂は正中2年(1325年)、尾道の有徳人、道蓮・道性夫妻によって再興された建物です。
時空に閉じ込められた烏天狗は果たして「刻の玉」をすべてそろえられるのでしょうか?
Mange Tak Resort Onomichi(マングタックリゾート尾道)
Mange Tak Resort Onomichi(マングタックリゾート尾道)は、宿泊施設のほか薬膳カフェやルーフトップバー、エステ、ネイルサロンを備えた複合型施設。
施設屋上にあるルーフトップバー「Hygge & Fika(ヒュッゲ・アンド・フィーカ)」からは、尾道三山のひとつ、千光寺山の幻想的な景色を眺めながらお酒が楽しめます。
そして、戯曲と呼応するように制作されたインタラクティブアートが物語のフィナーレを盛り上げます。
はたして、物語はどのような結末を迎えるのでしょうか。
おわりに
全行程、約4キロメートルを3時間~3時間30分かけてめぐる充実のまち歩きツアー。
地域の資源をまるまると取り込んだ観劇ツアーの雰囲気を、本レポートから想像するのは難しいかもしれません。
しかし従来の観光ガイドに飽き足りないというかたも、新しい戯曲観劇がしたいというかたも、今までにない観光に出会えると思います。
観客の感情を揺さぶる仕掛けが随所にあり、こちらもうまく芝居に同調しなければと感じたのは驚きでした。
尾道三山をめぐる観光と演劇、さらにアートのかけ合わせが生む、新たな非日常感を体験してください。
尾道回遊戯曲 巡る刻(めぐるとき)のデータ
名前 | 尾道回遊戯曲 巡る刻(めぐるとき) |
---|---|
期日 | 日程:日曜日10時〜(月2回開催) 公演時間:約3時間〜3時間半 参加人数:最大20名 ※最小10名から開催予定 ※約4kmほどの距離と尾道ならではの坂道・階段などアップダウンがあるので、歩きやすく、滑りにくい靴で参加。 ※公演開始15分までには集合場所へ。 ※中学生以上のみ参加可能。 ※新型コロナウイルス感染症拡大や天災などの影響により、内容の変更や中止の可能性があり。 ※冬季(11〜3月)は13時スタート。 ※8月は休止。 ※雨天等により中止になる場合は連絡あり。 |
場所 | 集合場所:千光寺山ロープウェイ 山麓駅(広島県尾道市長江1丁目3−3) |
参加費用(税込) | 6,600円(税込) ※ランチ・ミネラルウォーター・トートバッグ付 |
ホームページ | 尾道回遊戯曲『巡る刻』 |
千光寺山ロープウェイ 山麓駅 → 千光寺頂上展望台「PEAK」 → 大宝山・千光寺 → 猫の細道 → 艮神社 → 御袖天満宮 → 愛宕山・西國寺 → 瑠璃山・浄土寺 → そして…このあとの行程は当日をお楽しみに!