映画『とんび』『劇場版ラジエーションハウス』のロケ地として盛り上がっている岡山県浅口市と笠岡市。
映画のロケ地はどのように決まるのか、その取り組みを知る機会はそうありません。
2022年5月29日(日)、ロケ誘致の仕掛け人である岡山県フィルムコミッション協議会 FCコーディネーター 妹尾 真由子(せのお まゆこ)さんを迎えてトークショー「笠岡ロケハンティング」が開催。
『とんび』のロケ地として使われた笠岡市大島中にあるシェアアトリエ 海の校舎(旧大島東小学校)の講堂で、ロケ誘致についてのワクワクする話が聞けました。
主催は笠岡小さな映画館プロジェクトです。
映画『とんび』『劇場版ラジエーションハウス』が公開されるなか、笠岡市制施行70周年記念事業のひとつとして開催された笠岡発見ミニ映画祭VOL.1。
懐かしい昭和初期の笠岡のようすを映し出す「笠岡発見ミニ映画祭(記録映画上映会)」と、FCコーディネーター 妹尾 真由子さんのロケ誘致の情熱を感じられたトークショー「笠岡ロケハンティング」のようすをレポートします。
目次
笠岡発見ミニ映画祭VOL.1は笠岡市制施行70周年記念事業
笠岡発見ミニ映画祭VOL.1を主催した笠岡小さな映画館プロジェクトは、映画を通じて笠岡市を盛り上げようと映画ファンが集まり設立した団体です。
発足は2021年7月14日。
笠岡市の映画文化を掘り起こし、笠岡の映画についての資料や映像を公開したり大人向け子供向けの映画の鑑賞会を開いたりと、井戸会館(笠岡市笠岡)での映画上映会を中心に活動をしています。
笠岡小さな映画館プロジェクトが主催の笠岡発見ミニ映画祭VOL.1は、笠岡市制施行70周年記念事業のひとつです。
5月29日(日)当日の定員は80名のところ、会場の席はすべて埋まり満員御礼という状態で始まりました。
開催場所は、笠岡市の大島中にあるシェアアトリエ 海の校舎の歴史が刻まれている講堂。
笠岡発見ミニ映画祭VOL.1は、笠岡小さな映画館プロジェクトの「笠岡発見ミニ映画祭(記録映画上映会)」からスタートしました。
そのあと岡山県フィルムコミッション協議会 FCコーディネーター 妹尾 真由子さんのトークショー「笠岡ロケハンティング」が1時間ほど。
最後の妹尾さんへの質問コーナーで盛り上がり、抽選会では『とんび』のトートバッグやTシャツが当たる抽選会もあり、映画づくしの2時間でした。
笠岡発見ミニ映画祭で昭和初期の笠岡市のようすを知る
「笠岡発見ミニ映画祭(記録映画上映会)」最初の映画は「わがまち笠岡」という昭和40年代の記録映画から。
笠岡市立図書館が所蔵している白黒の動画をデジタル化、カラー化したものです。
笠岡小さな映画館プロジェクト会長 桝平 一平(ますひら いっぺい)さんの解説とともに、懐かしい笠岡駅前や笠岡の町並みのようす、石を切り出すようすなどをみんなで鑑賞しました。
2本目の映像は、さらに古い昭和初期の記録映画です。
笠岡市内のかたから笠岡小さな映画館プロジェクトへ渡ったフィルムを、なんとか再生できるように調整編集し、BGMやテロップをつけた力作でした。
昭和初期の映像に映っているのは笠岡女学校(現 岡山県立笠岡高等学校)、淳和実科高等女学校(現 岡山龍谷高等学校)、岡山県笠岡商業学校(現 岡山県立笠岡商業高等学校)の学校行事のようすなどが記録されています。
昭和初期の体育祭、着物で参加しているのは保護者のかたがた。
時代を感じます。
昭和初期の笠岡のようすを映した映像は貴重であり、古い町並みから現在の町並みの移り変わりに思いを寄せながら、楽しく見ることができました。
FCコーディネーター 妹尾真由子さんに聞く笠岡ロケの楽しい話
懐かしの「笠岡発見ミニ映画祭(記録映画上映会)」のあとは、岡山県フィルムコミッション協議会 FCコーディネーター 妹尾真由子さんに聞く「笠岡ロケハンティング」の開始です。
映画やテレビ番組、CMなどの撮影地として岡山県のさまざまな地域を紹介する妹尾さんの仕事の内容や、岡山県にロケ地を誘致する大変さとやりがいなどについて盛りだくさんの濃いお話が聞けました。
笠岡市にロケを誘致するまでのことや、笠岡での映画撮影裏話を含めて、約1時間ノンストップのトークショーで印象深かったお話をピックアップします!
FCコーディネーター 妹尾真由子さんは専任職員
妹尾さんは、2013年に岡山県小田郡矢掛町役場に入庁され、矢掛町のご当地キャラ「やかっぴー」とともに矢掛町の観光PRで活躍しました。
2016年より岡山県観光連盟に出向し、2018年から岡山県フィルムコミッション協議会の専任職員として、多くの映画やドラマのロケを誘致することに成功。
2018年には、映画やドラマの撮影支援やロケーションの発掘などに取り組む団体を表彰する第4回JFCアウォードで「最優秀賞」を受賞します。
そして、妹尾さんは多くの映画制作関係者から大きな信頼を得ながら、フィルムコミッション事業に日々奮闘。
妹尾さんは、岡山への映画・ドラマなどのロケ誘致で立役者的な存在なのです。
フィルムコミッションはロケ支援からプロモーションまで
日本国内では、2000年にフィルムコミッションがスタート。
岡山県のなかでは、笠岡諸島フィルムコミッションが一番はやく立ち上がったそうです。
2002年のことでした。
2022年現在、県内全27市町村、7つの地域フィルムコミッションと連携をとりながら、窓口を一本化してロケ支援などに対応しています。
岡山県フィルムコミッション協議会の主なサービスは、以下のとおりです。
- ロケーションの相談および提案
- シナハン・ロケハンの調整や同行
- 各種許可申請手続きの相談や協力
- 各種関連事業者や宿泊施設の紹介
- エキストラ人材バンクを使ったボランティアエキストラの手配
- 岡山県内ロケ地の地元住民への情報提供と協力依頼
岡山県内の撮影に関することなら何でも相談にのり、対応しているのです。
「できません」は言わない
制作会社から妹尾さんのもとに寄せられる問い合わせは、無理難題、実現は難しいものが多いそうです。
- 時速100キロメートル以上出せる道
- 老婦人が一人住んでいそうな一軒家
- 封鎖可能な片道3車線の道路
など、ちょっと岡山県では難しいかなあと思う問い合わせがあっても、妹尾さんはすぐに「できません」とは言わないとのこと。
まず「どうやったらできるか」を考え、制作会社の人と相談を重ねることで信頼を得られるようになりました。
その信頼が結果的にロケ誘致に結びつくと妹尾さんは話します。
できないとは言わず制作会社サイドの希望をかなえるために、地域のかたがたといっしょに考え、映画やドラマの成功を陰で支える姿勢には、感銘を受けました。
岡山県がロケ地に適している理由
岡山県内の場所がロケ地になった作品は、数多くあります。
ロケ地として多くの作品に登場する岡山県。
岡山県のどんなところにロケ地としての魅力があるのでしょう。
妹尾さんがその答えを教えてくれました。
制作者の要望にあうロケ地が豊富な岡山県
岡山県は映画やドラマ、CMなどに適したロケーションが豊富です。
岡山駅周辺だと都市の風景が撮影可能。
都市部を離れると、田舎の風景や古い町並みなどが数多く現存しています。
映画『とんび』の舞台、昭和を感じさせる町並みや、『劇場版ラジエーションハウス』の離島を見事に表現した笠岡島しょ部。
他の県にないロケ地としての資源が豊富なのです。
デメリットをメリットにする発想で岡山が変身
岡山県内の景色を切り取り、「ここはどこでしょう?」と岡山県外に住んでいる人にたずねると即答してもらえる場所が少ないことは、岡山県に住んでいる筆者も「なんとかしなければ」と考える部分です。
しかし、妹尾さんはデメリットともとれる部分を、ロケ誘致においてメリットに変えてしまう発想の転換をします。
特徴がなく知名度が低いことは、映画やドラマのストーリーに合わせた「街」や「場所」を作り上げる可能性があることだと、アプローチの方向を変えて提案するそう。
ロケ誘致を成功に導く逆転の発想です。
「晴れの国おかやま」ならではの天候の良さ
岡山県の年間降水量は全国でも少なく、まさに「晴れの国おかやま」。
岡山県の統計分析課のデータ(1991年から2020年)によると、岡山県は、「降水量1ミリメートル未満の年間日数」で全国1位。
雨の降る日と降水量が少ない岡山県は、制作上のスケジュール管理がしやすいので、ロケ地として重宝されるということです。
岡山県にロケ地を誘致するメリットとは
岡山県にロケ地を誘致することは、多くのメリットがあります。
とくに作品を活用して、岡山県のプロモーションができることは大きなメリットです。
いろいろな媒体を使いPRするためには多大な広告宣伝費がかかりますが、映画やドラマなどであれば、無料で広く情報発信をしてもらえます。
ロケ地としての岡山県の魅力と岡山県自体が持っている地場の魅力を結果的に発信することになり、プロモーション活動としては非常に高い効果が見込めるのです。
地元の人にとっても、自分たちが住んでいる岡山県の魅力を再発見することにもつながります。
岡山県に住んでいる人が、岡山をもっと好きになってほしいとの願いをこめて、妹尾さんはフィルムコミッション事業に日々取り組んでいるそうです。
ロケ地としての笠岡の魅力
映画『とんび』と『劇場版ラジエーションハウス』のロケ地として、2022年上半期に2本の映画に登場した笠岡市。
笠岡市のロケ地としての魅力を妹尾さんは語りました。
海と島がある笠岡市
岡山県の自治体のなかで島を有している笠岡市はロケ地として非常に魅力的だそうです。
有人7島の笠岡諸島は、さまざまなシチュエーションに対応する可能性を持っているので、今後もロケ地として協力していただきたいと妹尾さんは話します。
駅前の大通りと商店街
笠岡市駅前の大通り(県庁通り)は、アクション映画に適しているそうです。
駅前の大通りを封鎖してアクションシーンを撮影してみたいし、駅前の商店街には、昭和の時代に作られたであろうと思われるレトロな看板がそのまま残っているので、この風情をロケ地として生かせないかと考えていると妹尾さんは語りました。
笠岡ベイファームの花畑をミュージックビデオで
広大な花畑で季節ごとの花が楽しめる笠岡ベイファームは、ミュージックビデオやCMのロケ地として最適です。
人気のアイドルが、笠岡ベイファームの菜の花やひわまり、コスモスのなかでミュージックビデオを撮影したならば、ファンの人たちが笠岡ベイファームへ聖地巡礼として訪れるのではないかと、妹尾さんは考えています。
ノンストップトークショーのあとは質問タイムと抽選会
トークショー「笠岡ロケハンティング」は、とても盛りだくさんの内容であっという間に終わりました。
毎日忙しくフィルムコミッション事業に取り組む妹尾さんのお話は、さきほど紹介した以外にも興味深い内容がたくさん。
海の校舎の講堂に集まった約90名の参加者が、妹尾さんのトークに魅了された約1時間でした。
最後に「エキストラ人材バンクの登録をお願いします!」と妹尾さんが案内をすると、さっそくあちこちで登録しようとの声が聞こえてきました。
トークショーのあとは、参加者からの質問コーナー。
映画の撮影についての質問が多かったですね。
そして、突然の抽選会!
受付で事前アンケートを記入していたので、そのなかから抽選で映画『とんび』に関するグッズをプレゼントというサプライズ企画のスタートです。
筆者は残念ながら…抽選にもれました。
『とんび』のTシャツ、当たってほしかったなあ…。
おわりに
かつて笠岡には映画館が10館あり、笠岡市民にとって映画は常にそばにいる存在でした。
時代の流れで笠岡市内の映画館は姿を消しましたが、今も映画が私たちをひきつける力は大きくなっています。
「笠岡発見ミニ映画祭(記録映画上映会)」とトークショー「笠岡ロケハンティング」が終了したあと、笠岡小さな映画館プロジェクト会長の桝平さんと話したなかで、以下の言葉が心に残りました。
「笠岡のためになにかをしないと。
好きな映画を通して、私たちにできることを考えて動かないと」
ここにも地域のなかで笠岡の魅力を発信しようと精力的に活動している団体がいるのです。
映画の舞台を岡山県にいざない、岡山県の魅力を日本中・世界中に発信するために突き進んでいる妹尾さん。
活動する世界は違えど想いは同じ人たちが、「映画」を通し岡山県、そして笠岡市の魅力をたくさんの人に届けようと奮闘する姿が、笠岡発見ミニ映画祭VOL.1で見えた気がしました。
笠岡発見ミニ映画祭VOL.1 (笠岡ロケハンティング)のデータ
名前 | 笠岡発見ミニ映画祭VOL.1 (笠岡ロケハンティング) |
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期日 | 2022年5月29日(日) 午後1時30分から3時30分 |
場所 | 岡山県笠岡市大島中2553 (シェアアトリエ 海の校舎 講堂) |
参加費用(税込) | 無料 |
ホームページ | 笠岡小さな映画館プロジェクト |