命が吹き込まれたかのように宙を舞うボールやナイフで人々を魅了する大道芸人。
小道具が飛び交うようすに目を釘付けにされるだけでなく、高所や不安定な場所でのパフォーマンスによって心臓が引き締まるような思いをさせられることもあります。
福山市出身の大道芸人、吉原颯太(よしはら そうた)さんが、大道芸の魅力に取りつかれたのは小学生のとき。
初めて大道芸を見た小学生のときから練習を重ね、大道芸人 S4(エスフォー)として舞台に立ってきました。
2023年8月には、スコットランドの首都エディンバラまで足を運び、世界中のパフォーマーが集まる大会への出場も果たしています。
福山市で育った大道芸人 S4、吉原さんが、世界に挑戦するまでの道のりを紹介します。
記載されている内容は、2023年11月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
大道芸人 S4 吉原颯太のパフォーマンス
大道芸人 S4、吉原颯太さんのパフォーマンスはどのようなものなのでしょうか?
吉原さんの経歴とパフォーマンスの内容を紹介します。
吉原颯太さんの経歴
吉原颯太(よしはら そうた)さんは、福山市を中心にS4(エスフォー)の名前で活躍する大道芸人です。
吉原さんが大道芸と出会った場所は、小学生のときに母親と一緒に訪れた福山ばら祭。
全国から大道芸人が集まり、街中でさまざまな技を繰り広げる「ふくやま大道芸」がおこなわれており、そこに足を運んだことがきっかけで大道芸に出会いました。
その後、小学生ながら老人ホームや幼稚園でのパフォーマンスを始めます。
2017年、吉原さんが中学生のときには、大道芸人を目指すきっかけとなった「ふくやま大道芸」に登壇しました。
中学生のときから活動を続け、2023年6月には福山市で単独公演を実現。
2023年8月には、イギリス、スコットランドの首都エディンバラで開催されたEdinburgh Festival Fringe(エディンバラ フェスティバル フリンジ)という世界最大級の芸術祭へも出場しました。
大道芸人 S4のパフォーマンスと見られる場所
吉原さんのパフォーマンスは、おもに行政や企業が主催するイベントで見られます。
これまで、野外でおこなわれる音楽フェス、企業の商品展示イベント、地域のお祭りなどに出演してきました。
吉原さんのパフォーマンスには、さまざまな種類があります。
ボールやクラブ(ボーリングのピンのようなもの)を使ったトスジャグリング。
クリスタルボール(手のひらより少し大きいガラス玉)を体から離さずに移動させるコンタクトジャグリングも極めています。
他にも、お椀を2個つなげたようなコマを、2本のハンドスティックに通した糸で回転させるディアボロ。
また、子どもが多く参加するイベントでは、バルーンアートによるパフォーマンスを披露してきました。
パフォーマンスのあとには、風船を使った作品の作り方を教えるワークショップを開催して、子どもたちが一緒になって楽しめるように工夫しています。
大道芸とは?
大道芸という言葉は、厳密には路上でのパフォーマンスのことを指すそうです。
路上でのパフォーマンス、すなわち大道芸は、観客がいない状況から始めるのに対して、舞台でのパフォーマンスは、観客が集まっている状況から始まります。
吉原さんは、観客を魅了するために、大道芸と舞台でのパフォーマンスでは、技を繰り出す順番や音楽を変える工夫をしているそうです。
パフォーマンスの構成も、人を惹きつけるための重要な要素だと話していました。
小学生のときに大道芸と出会い、現在に至るまで大道芸の道を極めてきた吉原さん。
これまでどのように大道芸と向き合ってきたのかを深掘りしていきます。
大道芸人 S4 吉原颯太さんにインタビュー
大道芸人 S4 吉原さんは、世界へ挑戦するまでにどのような経験を積んできたのでしょうか。
吉原さんの経歴を、インタビューを通じて紹介します。
大道芸人を目指した理由
大道芸人を目指したきっかけは?
吉原(敬称略)
小学生のときに「ふくやま大道芸」に足を運んだことが大道芸との出会いでした。
「ふくやま大道芸」は、「福山ばら祭」が開催されている2日間、全国から大道芸人が集まり、福山の中心市街地でパフォーマンスを競うイベントです。
母親に連れられて、たまたま福山ばら祭を訪れたのですが、そこで繰り広げられる大道芸に圧倒されました。
大道芸の体験教室も開催していて、ディアボロという中国ゴマを使ったジャグリングに挑戦しました。
夢中になってしまい、気がつけば4時間以上が経過。
母親がディアボロを買ってくれて、それから家で練習するようになりました。
その後、初めて人前で披露したのはいつだったのでしょうか?
吉原
小学校の放課後に、校庭で練習していました。
校庭は広々としているので、コマを高く投げ放つ技の練習ができます。
練習を続けるうちに、同級生や先生たちにもジャグリングができることが知られるようになりました。
たくさんの人の注目が集まるので、モチベーションもより一層高まります。
転機となったのは、地元のお祭りです。
お祭りの舞台でおこなわれている催しを観客として見ていたのですが、突然、校長先生に声をかけられました。
校長先生は、舞台に上がってパフォーマンスする機会を与えてくれたのです。
そこで、ディアボロを使ったパフォーマンスをおこなったのが人生で初めての舞台でした。
パフォーマンスをどのようなところで続けていたのでしょうか?
吉原
小学校高学年で初めて舞台でパフォーマンスをして以来、ボランティアで舞台に立つようになりました。
たとえば、老人ホームや幼稚園に行って、パフォーマンスするようになりました。
他にも、広島県三原市の土砂災害の被災地、障がい者の就労支援施設、変わったところではお寺の講和会でもパフォーマンスをした経験があります。
小学生、中学生のときから、いろいろな場所でパフォーマンスをする機会に恵まれました。
中学生のころにもっとも印象に残っている舞台は?
吉原
さまざまな舞台でパフォーマンスをしながら、中学生のときに、大道芸人を目指すきっかけとなったふくやま大道芸に出場します。
もちろん、私が初めて目にした大道芸人も参加していて、同じ楽屋を使って、同じ路上に立ってパフォーマンスができるという事実に胸が熱くなりました。
地元の友達も見にきてくれて、楽しみながらパフォーマンスをしたことが記憶に残っています。
プロとして活動を始めて
下積み時代の苦労のようなことはあったのでしょうか?
吉原
小学校、中学校とパフォーマンスを披露してきたので、下積みだと明確に実感する経験がなかったのは幸甚だったと感じています。
それでも、最初は業界のことはまったくわからないので困ったこともありました。
中学生が一人で現場に行き、打ち合わせをするのは難しく、指摘や注意を受けたこともあります。
私の精神は豆腐のように軟弱なので、指摘を受けるたびに素直に聞き入れていました。
そのなかで、徐々に舞台に立つまでの段取りなどの運営に必要なことが身につきました。
パフォーマンスをするうえで重要なことはなんでしょうか?
吉原
技だけでなく、パフォーマンスの全体の流れです。
大道芸を始めるときは、人が集まるように、目を引くような技をおこない、それに合わせた音楽を流します。
パフォーマンスの中盤に差し掛かれば、落ち着いた雰囲気にして、次に何が起こるのだろうと観客に想像させます。
パフォーマンスに構成があるからこそ、観客を魅了することができるんです。
構成を考えるときには音楽のプレイリストを組み立てています。
音楽を聴きながら何をするかを具体的に想像して、音楽のプレイリストを構成と捉えながら流れを組み立てるのです。
準備の段階では、プレイリストの作成にもっとも時間をかけています。
観客との関係を築くときに大切にしていることはありますか?
吉原
安心感を作りだすことが大切だと思っています。
具体的な例をあげるとスピーカーの位置。
スピーカーが観客の目の前にあると、圧迫感が生まれて、私と観客のあいだに距離ができます。
物理的な距離が生まれるとパフォーマンスの温度感も伝わりにくくなるので、スピーカーを私よりも後ろに置くことで、安心してパフォーマンスを見られる環境を提供しています。
大道芸人として世界を巡る
イギリスに渡航した目的は?
吉原
Edinburgh Festival Fringe(エディンバラ フェスティバル フリンジ)という、世界最大級の芸術祭に参加してきました。
イギリス、スコットランドの首都エディンバラで、毎年8月、数週間に渡って、音楽や演劇、ダンス、そして大道芸などのpaerforing arts(パフォーミングアート)と呼ばれる人前で披露するための芸術が繰り広げられます。
大道芸では、一輪車の上で、りんご、ナイフ、チェンソーによるトスジャグリングをしながら、最終的にりんごを食べるというパフォーマンスをしている人がいました。
正気とはとうてい思えないようなパフォーマンスに、世界のレベルの高さを実感。
同じ路地の隣り合う場所で、凄まじいパフォーマンスが展開されるというのは、観客を呼ぶのにかなり不利だと感じました。
それでも、私も準備してきたパフォーマンスを披露して、集まってくる観客を楽しませることができました。
他にどのような経験をしたのでしょうか?
吉原
エディンバラでの大会とは別に、ロンドン中心部にあるレスタースクエアでも大道芸を披露しました。
欧州各地から集まってきた大道芸人が、街ゆく人たちにパフォーマンスするような広場です。
日本で6年間プロとして活動してきたので自信はあったのですが、まだまだ未熟だと実感。
素晴らしいパフォーマンスには人が集まってくるし、そうでないなら見向きもされないという厳しい場所です。
観客が途中で帰ってしまったり、冗談が通じなかったりして、大道芸人として振り出しに戻ったような気持ちになりました。
ロンドンには、2週間滞在していたのですが、ほぼ毎日レスタースクエアに行って、修業だと思いながらパフォーマンスを続けました。
これからどんなことに挑戦したいですか?
吉原
欧州で世界レベルのパフォーマンスを見たことで、もっと海外に足を運び、たくさんのことを吸収したいと考えるようになりました。
「自分が経験していない世界を知る」ということが好きなので、もっと多くの大道芸人に出会いながら、技術的にも、精神的にも成長したいと思っています。
そして、私のパフォーマンスが世界でどこまで通用するのかを確かめてみたいです。
大道芸を通じて、「楽しい」や、「カッコいい」という印象を与えるだけでなく、パフォーマンスの先にあるメッセージを伝えられるようになることが私の目指している姿です。
大道芸に魅了されたあとに
大衆のまえで目が覚めるようなパフォーマンスを繰り広げる大道芸人ですが、一つの技を習得するのに数年も要することもあるそうです。
そして、技術のみならず、人を惹きつけるためには、スピーカーの位置や音楽の順番、声の掛けかたなど、技術ではない部分へのこだわりも重要だと教えてくれました。
華やかに見える一瞬のパフォーマンスは、楽しむことだけで終わってしまいがちです。
しかし、実は努力という礎の上に成り立っているということが、吉原さんの言葉からは伺えます。
世界へ挑戦するという意志は、地道な努力を積み重ねることへの覚悟なのかもしれません。
小道具がまるで命が吹き込まれたように見えるのは、パフォーマンスの一つひとつに魂が込められているからなのだと思います。
吉原さんのメッセージを受け取るために、パフォーマンスの裏側にある光景を想像してみたら、並々ならぬ努力が見えてきました。
S4(大道芸人 吉原颯太)のデータ
名前 | S4(大道芸人 吉原颯太) |
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期日 | 行政や企業のイベントにて不定期に公演 |
場所 | 主に中四国を中心に開催されるイベントにて公演 |
参加費用(税込) |