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尾道やすらぎの宿 しーそー(SeeSo) 〜 尾道の海と坂道が一望できる宿

尾道やすらぎの宿 しーそー(SeeSo) 〜 尾道の海と坂道が一望できる宿

泊まっとこ / 2021.12.10

「尾道やすらぎの宿 しーそー(SeeSo)」の森田 剣さんにインタビュー

しーそーの宿主・森田さん

「また来んさいね!」という願いをこめて名付けた宿名

まず宿の名前について教えてください。「しーそー」という名前にはどんな意味が込められているのでしょうか。

森田(敬称略)

宿の名前は、オープンのときにスタッフみんなで考えて決めました。

“See You!”(また来んさいね!)という想いを込めてその言葉をもじっているんですが、しまなみの“S”尾道の“O”は入れたくて。

また、お客さんのオンオフの切り替えのお手伝いがしたいという気持ちもありました。

皆さんどうしても日々ストレスを抱えながら生活していますよね。

尾道に来て、うちの宿に泊まって、公園にある遊具のシーソーみたいにギッコンバッタンとオンオフをうまく切り替えて、気分を変えてリフレッシュして過ごしてもらいたいなと思って「しーそー(SeeSo)」という名前になりました。

「しーそー」は2017年オープンということですが、森田さんは前職から宿の仕事をされていたんですか?

しーそーの宿主・森田さん

森田

いえ、前職は保険代理店でした。

保険代理店時代のある日、たまたま忘年会で不動産会社の社長と飲んでいたときに「宿屋やらんか?」って言われて。

何を言われたかわからなくて「え?何屋ですって?」って聞き返しましたね。

寝耳に水ですよね。

森田

本当ですよね。そのときすでに50代でしたし、余計に「えっ?」って。

でもその社長に「天職やと思う」って言われて。とりあえずまずは物件を見てみることにしたんです。

ここはもともと日立造船の保養所でした。

閉館する間際には一般のかたも泊まれるようにしたようですが、ほとんど日立造船の関係者が泊まるような旅館です。

物件を見てみていかがでしたか?

森田

この景色をお客さんに見てもらいたい

すぐにそう思いましたね。

しーそーから見た尾道
船が行き来せずに「凪(なぎ)」となっている状態の尾道水道。水面が揺れることなく美しく尾道の夜景を映し出す。 提供:尾道やすらぎの宿 しーそー(SeeSo)

森田

その当時、私は52歳。

もしかしたら新しいことを始めるのはこれが最後のチャンスかもしれない、という想いもありました。

しーそーの宿主・森田さん

しーそーさんから見える尾道の眺めは本当に唯一無二ですよね。でも奥さんはビックリされたんじゃないでしょうか…?

森田

そりゃビックリしたでしょうね(笑)

「宿屋やってみる?」「え?何屋?」って。

あれ?その会話さっきもどこかで…。いえ、でも普通そういう反応になりますよね。

森田

ですよね。

ただね、保険代理店の仕事が割とストレスフルでしんどそうに働いていたのを側で心配してくれていたので、結局は宿屋を始めることに賛成してくれて、起ち上げから今までずっと女将として一緒に切り盛りしてくれています。

しーそーの森田さんご夫婦

この景色を喜んでもらえることが宿主としても喜び

この場所からすばらしい景色が臨めることは、前々からご存知だったんですか?

しーそーの宿主・森田さん

森田

知らなかったです。

私は因島(いんのしま)の生まれで、大学から東京に住み、広島市内を経て尾道のほうへ戻ってきたんですが、ここからの眺めがこんなにすばらしいなんて。

地元の人も、あんまり知る機会がないんじゃないかな。

「しーそー」さんはコンセプト通りアットホームであたたかくて、リピーターのお客さんもかなり多い印象です。

森田

おかげさまで、うちに泊まるのを楽しみにしてくれる常連さんにも恵まれていますね。

起ち上げてからすぐのお客さんとも、いまだSNSなどで交流があったりします。

新しく来られたかたにももちろんこの景色を見て喜んでもらえるとありがたいですし、そんなとき「宿主をやっていて良かった」とやりがいを感じます。

しーそーの宿主・森田さん

森田

でも、宿の運営というのは試行錯誤の連続です。

時にやることなすことうまくいかなかったりして、しんどくなるときもしょっちゅうです。

そんなときは「魔物が巣食っとるわ〜」なんて笑い飛ばしたりしながら前へ前へ進むしかないですね。

大変だったエピソードを教えてください。

森田

もちろん今も大変なことはあるんですが、なによりもオープン前の苦労が山ほどあります。

市との調整がスムーズにいかなくて旅館業の許可がなかなか下りず、それもあって銀行からの融資も受けられず、あのときはもうどうしようかと思いました。

しーそーの宿主・森田さん

森田

以前ここが保養所だったころに登記した検査済証がないから図面を新たに起こして計算し直す必要があるとか、非常灯を全部取り替えないといけないとか…。

何をどうしたらいいか、どこにどうお願いしたらいいか、そんなことも最初はまったくわからない状態でしたし、市役所のかたからもだんだん意地悪をされているような気持ちになってしまい。

「私のことが憎いんだろうか」なんて思うくらいうまくいかなくて、しんどい日々でした。

しーそーの宿主・森田さん

森田

ある日、現・副市長とのご縁もあってようやく物事が進み出しましたが、銀行さんとの面談含めてあのときはもう、いろいろなことがハードルでしたね。

でもね、もちろん助けてくれた人もたくさんいます。

消防法手続きで大変お世話になった市の消防は今でも頼りにさせてもらっていますし、大家になってくれた“尾道の情熱大工”である吉原建設さんにも感謝しています。

自転車大好き!森田少年の四国一周エピソード

しーそーの宿主・森田さん

森田さんといえば、かなり自転車がお好きですよね。「しーそー」でもレンタサイクルのサービスがあったりして、サイクリストにも優しい宿というイメージがあります。森田さんと自転車との出会いを教えてください。

森田

「自転車いいな」と思ったのは小学校低学年のころ。

きっかけは漫画『サイクル野郎』(作・荘司としお)で、自転車で日本一周するストーリーにものすごく憧れました。

当時は新聞配達のアルバイトをしてから学校に行っていたんですが、そのお手当はすべて自転車につぎ込んでいました。

しーそーの宿主・森田さん

森田

因島にサイクルショップなんてなかったので、『サイクルスポーツ』という自転車雑誌の「売りたし買いたしコーナー」に投稿された部品を少しずつ買っていましたね。

小学生がだよ。変態でしょ(笑)

(そうですねとは言いがたい…)部品を買っていたんですか?自転車ではなく?

森田

フレームを買ってイチから組み立てるんですよ。

今や誰が組んでもうまく動くように改良されていますけど、昔の自転車ってうまく組まないとすぐ壊れてしまうんです。

失敗もたくさんしてきて、次はこうしてみよう、ああしてみようなんて考えて組んだり練習したりして、自転車に夢中でしたね。

そうしたら今度は、その自転車で旅行に行ってみたくなったの。

それで中1の夏休み、一人で四国一周してきました

しーそーの宿主・森田さん

えっ、四国一周…?一体どれくらいの距離あるんですか!?

森田

因島から今治を経由して時計回り、およそ1,000キロメートルを7泊8日で

その間、新聞配達の仕事を親父に代わってもらわないといけないから、予算や工程を事細かに計画してきちんとプレゼン資料を作って「お話しがあります」って言って説得しました(笑)

親父は「そこまで決めたならやってみなさい」と言ってくれましたね。

寛大なお父様…。第一関門突破ですね!

森田

でも2日目の夜、徳島のユースホテルでお金を財布ごと盗られちゃってね

えーーーーー!

森田

幸いポケットに少しだけよけていた小銭があったけれど、2日目にしてほぼ文無しに。

でも親父にバレたら大変だ!と子どもながらに思って、そのまま旅は続行しました。

今はもうできないけれど、当時は国鉄の駅で野宿するサイクリストもたくさんいたので高知の中村駅で一晩過ごしたりもしました。

ほかにはお寺の住職にお願いして泊めてもらったり、たまたま先払いしていたユースホテルに泊まったりとなんとか7泊8日の旅を完走できた!と思ったら。

思ったら?

森田

最後の最後で詰めが甘くて、帰りのフェリー代がありませんでした(笑)

結局泣く泣く親父に連絡することになりましたね。

でも因島に帰ってきたときはまるで凱旋パレードのような気分で、達成感はものすごかったです。

しーそーの宿主・森田さん

大きなご経験ですね…。ちなみに私のように体力が全然ない人にオススメのサイクリングコースなんてありますか?

森田

まずは瀬戸田港まで船で行き、そこから多々羅大橋を渡って大三島へ行くコースがオススメですよ。

このコースは、だいたい10キロメートルほど。

多々羅大橋は広島と愛媛の県境なので走ると達成感があると思いますし、多々羅しまなみ公園はサイクリストの聖地なので思い出にもなります。

物足りなかったら帰りは船を使わずに自転車で帰って来るとか、伯方島まで足を伸ばすのもアリかもしれません。

その人のニーズに合わせて、コースはさまざまご提案できると思います。

自転車のことはもちろん、周辺までのコースでわからないことがあったらなんでも聞いてください

「ただいま」と言ってもらえる場所を目指して

最後に、これから先「しーそー」をどんな宿にしていきたいですか?

森田

尾道に来たらここからの景色はぜひ見て帰ってほしいですし、「尾道といえばここ!」と思ってもらえるような宿になれたらうれしいです。

また宿主に会いに来てくださるお客さんがいるように、各スタッフともぜひ交流を深めて、施設ごと、人ごと好きになってもらえるようになれたら最高ですね

おわりに

筆者は尾道での家探しの際、「尾道やすらぎの宿 しーそー(SeeSo)」に宿泊しました。

毎回ぜえぜえと苦しくなりながら丘の上の宿まで帰るんですが、宿主や女将、スタッフのかたが優しく迎えてくれ、「ただいま」という言いたくなるようなあたたかさがあったことを今でも思い出します。

部屋から尾道の夜景をぼーっと眺めるのも幸せな時間でした。

近場の人だとなかなか泊まりに行く機会が少ないかもしれませんが、ぜひ一度、この丘からの景色を見に来てください。

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アンドウミク

アンドウミク

2021年2月に東京から移住した尾道在住ライターです。食べることとお酒が大好きで、尾道を中心においしいお店を探して歩きまわる日々。移住者目線を大切に、地域の人が知らなかったような魅力にもフォーカスして発信します。

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