歴史的な町並みが残る福山市鞆町に、2022年7月30日にオープンした施設が「鞆てらす(ともてらす)」です。少し奥まった場所にある入口から建物に入ると、博物館のようでもあり案内所や休憩所のようでもある、その施設の充実ぶりに驚かされます。
「どなたでもお気軽にどうぞ」
「暑い時季は『クーリングシェルター』としてもご利用ください」
鞆てらすスタッフの佐藤さんと藤澤さんが、笑顔で迎えてくれました。
正式名称を「福山市鞆町町並み保存拠点施設」という鞆てらす。2025年7月に3周年を迎えた施設の概要について紹介します。
「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」とは、危険な暑さから逃れるために誰もが利用できる場所として市町村が指定した、冷房設備を備えた施設のことです。
記載されている内容は、2025年9月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
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目次
「鞆てらす」とは

鞆町伝統的建造物群保存地区の中心に位置する鞆てらすは、福山市が運営する施設で、誰でも無料で利用可能です。
2階建ての建物の1階には3つの展示エリアと交流室などが、2階には鞆の町並みを保存し活用するための相談所が、設けられています。
「鞆てらす」の名称には、鞆のシンボルである常夜燈のイメージと、末永く鞆の町並みを照らしていくとの思いが重ねられています。
2025年7月24日には、利用者数15万人を達成。ゴールデンウィークや福山ばら祭、世界バラ会議があった2025年5月の利用者数は過去最高の6,634人になりました。
開館時から鞆てらすのスタッフを勤めている佐藤さんは、3年間で徐々に知名度が上がってきたと感じているそうです。
鞆てらすの役割
鞆てらすは、いくつかの役割を目的として建てられた総合施設です。それぞれの役割について、順に紹介します。

観光の拠点
鞆てらすは、鞆の町を散策する途中に何度でも立ち寄りたい施設です。
鞆てらすには、次のものが備わっていて便利だからです。
- トイレ
- コインロッカー
- 授乳室
- キッズスペース
- 交流室






観光地では、お店探しに悩むこともあります。
「あのカフェに行くつもりだったのに、定休日だった!どこなら入れる?」
受付の前にはそのような悩みにこたえてくれる、その日に開いているお店の一覧が置いてあります。
取材に訪れた木曜日は、週のなかでもっとも開いているお店が少ない日とのことでした。この一覧を見てスタッフに相談すれば、満足の行くお店探しができそうです。

鞆の魅力を紹介
鞆てらすでは3つのエリアに分けて鞆の魅力を紹介しており、映像、写真、キャプションなどさまざまな方法で、鞆の魅力に触れられます。
潮待ちの港

「潮待ちの港」エリアでは、シアターの映像を中心に、潮待ちの港として栄えた鞆の浦の魅力や、日本遺産「福山・鞆の浦」の構成文化財などを紹介しています。
日本遺産は、文化財を単体ではなく、地域の歴史・文化・伝統を語る「ストーリー」として認定する制度です。
福山・鞆の浦のストーリーは「瀬戸の夕凪が包む国内随一の近世港町 ~セピア色の港町に日常が溶け込む鞆の浦~」。
ストーリーは29の要素で構成されており、建造物だけでなく神事や食べ物も含まれています。
日本遺産事務局を担当する藤澤さんが、鞆の魅力を教えてくれました。
「鞆は、江戸時代の港湾施設5つがそのまま残る国内唯一の場所です。鞆の町を歩くと、潮待ちの港として栄えた頃の豪商の屋敷や、蔵、商家などが今も鞆の暮らしのなかにあることを感じます。私にとって鞆は、心が安らぐ町ですね」

鞆と祭
「鞆と祭」エリアでは、シアターや実物展示で、1年を通して開催される鞆の祭について紹介しています。


筆者が個人的に非常に気に入ったのは、VRゴーグルでの360°の映像体験です。

ゴーグルを装着すると、「鞆の浦の祭事」「近世港町鞆の浦」の2本の映像から選んで視聴できます。「鞆の浦の祭事」では、お手火神事や八朔の馬出しなどの映像が展開され、その場にいるかのような迫力のある体験でした。
上を向けば空が見え、下を向けば足元が見えるバーチャルツアーは、車いすユーザーの人にも非常に喜ばれているそうです。
町並み保存

「町並み保存」エリアでは、伝統的建造物の特徴的な工法を直に見られる工夫が施されています。
鞆てらすの半分は明治初期に建てられた町家を伝統的な技法を用いて再生した建物で、半分は増築した建物です。
極力古い材料を使いながら、傷みの激しい部分には新しい材料を使って仕上げています。その足跡がわかるよう、修理した箇所にはあえて色を塗らずそのままにしてあるのです。



鴨居(かもい)が低いため、注意喚起を兼ねて問題が貼ってありました。

答えは、ぜひ、実際に鞆てらすで見つけてください。
鞆の町並みの再生活用拠点
鞆てらすは、観光に訪れる人だけのための施設ではありません。鞆に暮らす人たちのための施設でもあります。

鞆町のうち、約8.6haが国の「重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)」に選定されています。古い町並みを残すため、重伝建地区内で建物の修理などをする際には許可申請が必要です。
一級建築士でもある佐藤さんが、説明してくれました。
「重伝建地区では、たとえば玄関の引き戸を取替えたい、といった場合でも勝手に工事ができません。町並みに合った建物となるよう、制限が設けられているのです。工事の内容によっては補助金の対象となりますので、ここで工事のご質問や悩みごとを話していただけるようにしています。
また、町並み保存のための空き家の活用、借りたい人と貸したい人のマッチングにも取り組んでいます。これまでに50人以上が、鞆に住みたいと希望され登録しています。一方、空き家の登録は20件くらいです。空き家を購入し、移住してこられたかたもいらっしゃいます」
鞆の風情のある町並みは、住む人と行政との努力によって保存されていることを知りました。

地域住民と来訪者の交流の場

鞆てらすは鞆に暮らす人たちと、鞆を訪れた人たちをつなぐ場所でもあります。
「鞆てらすの受付には地域の人が5人、交代でボランティアとして来てくださっているんです」
と、藤澤さんが説明してくれました。
ボランティアの5人は鞆で生まれ育った人、鞆に嫁いで来た人など、鞆に長く暮らす人ばかりなので、祭や昔の町のようすなどについて聞くと、詳しく教えてもらえるとのこと。ガイドブックには載らない情報を、地域の人から直接聞けることも大きな魅力です。
また、イベント開催時には、琴の演奏や地元の子どもたちの作品展示などで、地域の人と来訪者との交流が図られています。
鞆てらすスタッフに聞く、鞆の魅力

鞆に魅了され、関東や関西から移住してきたという佐藤さんと藤澤さん。お二人が感じている鞆の魅力について、聞きました。
「私がとくに好きなのは、朝や夕方の景色ですね。海の景色は毎日変わります。住んでいるからこそ味わえる空と海の色は、いつまで見ても飽きることがありません」(佐藤さん)
鞆の美しい一瞬を切り取った、佐藤さん撮影の写真を見せてもらいました。


「鞆の一番の魅力は、何といっても『人』です。お店でも町なかでも、少し勇気を出してあいさつすると、鞆の人たちの優しさを感じて、ほんわかと温かい気持ちになりますね」(藤澤さん)
この他、お二人のおすすめのスポットや祭などの話は、尽きることがありませんでした。

鞆を訪れたら鞆てらすへ行ってみよう!


鞆てらすは、観光の拠点であり、町並み保存の拠点であり、地域の人と鞆を訪れる人との交流の拠点でもあります。
「町歩きの途中に、何度でも気軽に利用してくださいね」
「映像を見ていただくと、実際に鞆で見てきた風景がより親しみやすく心に残ると思います」
佐藤さんと藤澤さんは、笑顔で説明を締めくくりました。
何度でも訪れたくなる鞆の町。鞆てらすは、鞆をより身近に感じられる施設でした。
鞆てらすのデータ

名前 | 鞆てらす |
---|---|
所在地 | 福山市鞆町鞆812番地1 |
電話番号 | 084-982-6760 |
駐車場 | なし 公共交通機関または近隣の公共駐車場(有料)を利用のこと |
開館時間 | 午前9時~午後5時 |
休館日 | 火 火曜日が祝日の場合は、次の平日が休館 年末年始 |
入館料(税込) | 無料 |
支払い方法 | |
予約について | |
タバコ | 完全禁煙 |
トイレ | バリアフリートイレ |
子育て | 授乳室 |
バリアフリー | スロープ エレベーター 車いす貸出 |
ホームページ | 鞆てらす |
・対潮楼:窓枠に映る景色はまさに一枚の絵
・医王寺:大きな鐘撞堂(かねつきどう)と瀬戸内海の景色
・仙酔島:仙人が酔うほどに美しい静かなビーチ
・沼名前(ぬなくま)神社:上りきると頭と心がクリアになる長い石段
・重伝建地区:心踊る、古民家の間の細い路地や坂道
・祭事:人々の熱い思いに溢れているお弓神事、お手火神事、秋祭り(チョウサイ)、弁天島花火大会など