写真植字やDTPの技術が普及し始める1970年代まで、文字印刷の主流となっていた活版(かっぱん)印刷は、2021年現在でもぬくもりが感じられる印刷物を生み出し続けています。
活版印刷のインクが作り出す独特の風合いを持つ印刷物。
1枚1枚かすかに違う凹凸とインクの濃淡は、人の手を介して印刷された温かさを感じることができます。
印象に残る印刷物を作りたい、人工的なものではない人の手作業を感じる印刷物を手にしたいというかたに愛されているのが、活版印刷です。
味わいがありどこか懐かしい活版印刷を気軽に体験できるのが、広島県尾道市東土堂町にある雑貨店「活版カムパネルラ」。
活版カムパネルラの扉を開けて一歩足を踏み入れると、さまざまなかわいい雑貨やアクセサリー、そして奥に進むと2台の印刷機と大量の活字が出迎えてくれるのです。
活版印刷が気軽にできるワークショップAコースを「福山あいどるくらぶ」のあゆさんに体験してもらい、そのようすをレポートします。
記載されている内容は、2024年1月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
活版カムパネルラのデータ
名前 | 活版カムパネルラ |
---|---|
所在地 | 広島県尾道市東土堂町11-2 |
電話番号 | 0848-51-4020 |
駐車場 | なし 駐車場はないので、公共交通機関か近隣の駐車場を利用。 尾道駅より徒歩10分。 |
営業時間 | 午前10時から午後6時 |
定休日 | なし 年末年始は休業 |
利用料(税込) | 活版印刷のワークショップ Aコース(15分) 基本料金550円(税込)+カード、ノート代 Bコース(1時間30分) 基本料金2,200円(税込)+カード、ノート代 |
支払い方法 |
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予約の可否 | 可 ワークショップは予約なしでも空いていれば可能だが、事前予約をしておいたほうが確実。 |
トイレ | |
子育て | |
バリアフリー | |
ホームページ | 活版カムパネルラ |
▼尾道駅の改札を出て前方の横断歩道を渡り、左手の本通り商店街を目指します。 ▼本通り商店街に入り、約400m直進します。 ▼ここを左折し国道2号に向かいます。 ▼トンネルが見える国道に向かいます。 ▼横断歩道を渡り右折します。 ▼左折し千光寺新道に入ります。 ▼天井が低いトンネルを抜け、階段を上がると到着です。
活版印刷とは?
活版印刷は活字を組み合わせて作る「活字組版」という版を使い印刷する方法で、使う版の種類により、凸版(とっぱん)印刷・凹版(おうはん)印刷・平版(へいはん)印刷・孔版(こうはん)印刷に分けられています。
活版印刷は印刷に使う金属製の字型「活字」を一つひとつ拾い活字組版を作ると印刷部分が凸状になることから、凸版印刷に分類。
活版印刷は凸状になっている活字部分にインクをつけたあとに紙をのせます。
その紙の上から圧力をかけて、紙にインクを転写し印刷するという仕組みです。
活版印刷で使用される手動式で比較的小型の印刷機は手動活版印刷機(テキン)と呼ばれ、活版カムパネルラでは2台の手動活版印刷機が使われています。
活版印刷のメリットは、活字が別々の独立した文字のため版を何度でも作れること。
このような活字を選び組み合わせて版を作り印刷する体験が、活版カムパネルラのワークショップで気軽にできるのです。
扉を押すと懐かしい雰囲気の空間が広がる
線路下のトンネルを抜けて、石段を上がったところにある活版カムパネルラ。
古民家を改装してオープンしたのは2016年1月29日です。
「カムパネルラ」という名前は、作家 宮沢賢治の作品「銀河鉄道の夜」から名づけられました。
主人公のジョバンニが、アルバイトで活字拾いをしていたという部分からとられています。
名づけたのは活版カムパネルラのオーナー、株式会社カメレオンワークス代表取締役の上田 昇辰(うえだ のりよし)さん。
作中で活字拾いのアルバイトをしていたのはジョバンニですが、友人の名前のカムパネルラをあえて使ったそうです。
なお上田さんのデザイン事務所カメレオンワークスは、活版カムパネルラに併設されています。
グリーンの扉を押すと、数多くの雑貨やアクセサリーが出迎えてくれます。
活版カムパネルラを訪れたのは、2021年3月上旬の午前10時すぎ。
午前中の明るい日差しが心地よく、窓からは尾道の線路や海を眺めることができます。
店内左手にはワークショップや印刷に使われる歴史を感じる手動活版印刷機が2台置かれていて、古くから活版印刷を支えてきたであろう佇まいに威厳が感じられました。
活版カムパネルラには日本のあちこちから活字が集まり、遠くは北海道から送られてきた活字も多く収められていました。
取材時のBGMは軽快なニューシティポップ。
ときには1970年代の日本の歌謡曲が流れることもあります。
昔の歌謡曲が流れているときの店内は、本当に昭和の年代にタイムトリップしたのかと錯覚するほど。
BGMはスタッフの好みによってかけられるそうです。
活版印刷で印刷された雑貨と2台の印刷機、多くの活字に囲まれた空間は、活版印刷をリアルに体験した年代にはタイムトリップしたような感覚を、活版印刷を知らない年代は経験したことがない異空間と感じることでしょう。
どの年代のかたにとっても活版印刷の道具と雑貨に囲まれた店内は、不思議と落ち着く空間です。
その空間の中にあるいろいろなものは、一つひとつがとにかくかわいいのです。
そして、どこか懐かしさを感じるものが多く、時間を忘れて店内の雑貨やアクセサリーに見入ってしまいます。
商品ではない小物にも惹かれてしまい、思わずシャッターを切りました。
ワークショップAコースで活版印刷体験
「福山あいどるくらぶ」のあゆさんに、ワークショップAコースを体験してもらいました。
Aコースは尾道をモチーフとしたデザインから好きなものを一つ選んで印刷するプラン。
印刷するパターンを「カード」「ミニノート」から選びます。
どれに印刷するかによって選べる紙が違うのです。
カードは店内にある55種類の紙から好きな5枚を選択可能。
Aコースは一番手軽に活版印刷が体験できるので、初めての人におすすめです。
あゆさんにはカードの活版印刷体験をしてもらいました!
取材時に限り、特別に許可を得てマスクを装着せずに撮影をしています。
印刷するデザインを選ぶ
Aコースは決まったデザインのなかから1個を選び、カードやノートに印刷します。
デザインは尾道らしいものや、活版カムパネルラのアイコンになっている猫のデザインなど7種類。
どれにしようかと迷うほどかわいいデザインばかりです。
あゆさんは、猫のデザインを選びました。
小さな棚からカードを5枚選ぶ
「お好きなカードを5枚選んでくださいね」と言われた あゆさん。
カードが収められている小さな棚の引き出しの多さに驚きながら、好みのカードを選んでいきます。
カードの材質も違うし色も数種類あるので、悩むこと数分。
その間にスタッフの國近(くにちか)さんは、手動活版印刷機の微調整と印刷する版のセッティングを始めました。
インクの状態、紙を置く位置の確認作業を粛々と進めます。
インクは活版印刷専用のインクです。
店内にふわーっとインクの香りが漂い始めました。
やっと5枚のカードが決まり、いよいよカードに印刷です。
活版印刷体験スタート!
印刷を始める前に、國近さんから印刷の手順が説明されます。
印刷の手順は以下のとおり。
- 印刷機のローラーに、むらなくインクをつけるためにレバーを上下に動かす
- 版がある部分にもインクを均等につけるためにレバーを上下に動かしたあと、一番上までレバーをあげる
- 印刷するカードをセットする
- レバーをゆっくりと下におろす
- レバーを下に押し込み3秒カウント
- カウントしたあとにゆっくりとレバーを上にあげる
これで1枚のカードの印刷が完了です。
ローラーを上下に動かしインクをのばす
活版印刷体験のスタートです。
最初は手動活版印刷機のローラーでインクをのばす作業。
ローラーと連動しているレバーを少しだけ上下して、インクをのばしつつローラーにインクをつける工程です。
そのあとレバーを上にあげて印刷する版の部分にローラーを移動します。
ここでもレバーを上下に動かして、インクを版につけます。
この作業がなんだか楽しい!
インクが十分ついたら、レバーを一番上に戻します。
これで準備OKです。
カードをセットし印刷を始める
カードをセットしてもらい、1枚目の印刷を開始!
レバーを下に止まるところまでゆっくりと下げていきます。
そしてググッと力を入れて、さらにレバーを下げるのですが、このときかなり力をかけないとレバーは下がってくれません。
あゆさんも力を入れてレバーを下げていました。
レバーが下がったら、ゆっくりと3つ数えます。
数え終わったらゆっくりとレバーを上にあげましょう。
これで、1枚目の印刷が終了!
きれいに印刷ができているでしょうか?
続けて印刷をします。
残りの4枚も同じ工程の繰り返しです。
2枚目、3枚目は順調でしたが、4枚目と最後の5枚目のレバーを下げるときには疲れが…。
でも、最後までがんばりました。
5枚のカードの印刷ができた!
カードの色と材質が違うこと、印刷するときに力をかけることで凹凸がはっきりとでる印刷部分など、オリジナル感が出ています。
あゆさんにワークショップAコースを体験してみた感想を聞きました。
「たくさんの種類や色のなかからカードを選んだのですが、実際に触って比べてみると質感が全然違うので選んでいてとても楽しかったです。
スタッフの方が、ていねいに教えてくださったので上手く印刷することができました!」
真剣に紙選びをして、印刷をがんばってくれたあゆさん。
活版印刷をしているあゆさんの表情に、楽しさがあらわれていました。
手軽な活版印刷体験Aコースの体験時間と料金
Aコースの料金は基本料金に紙代(3種類のなかから1種類を選択)をプラスします。
項目 | 価格(税込) |
---|---|
基本料金 | 550円 |
カード5枚 | 330円 |
ミニノート1冊 | 330円 |
カードの場合は、基本料金:550円+カード5枚:330円=880円でした。
Aコースの体験時間は約15分。
カードの他に、「ミニノート」も選べるので、好きなものに印刷してください。
筆者もAコースでミニノートへの印刷を体験してみました。
自分で印刷する機会など日常生活のなかではありません。
しかし、実際に活版印刷を体験してみると予想した以上に楽しく達成感があります。
ローラーを上下するときに香るインクの匂いが、「印刷するぞ!」という気分を高めてくれます。
自分で印刷したカードやノートは、インテリアとして部屋に飾ってもいいですね。
活版印刷体験のAコースは時間が15分程度なので、気軽に参加できるワークショップです。
活版印刷体験ワークショップBコースについて
ワークショップのAコースは、約15分という時間で気軽に体験できるコースでした。
Aコース以外に、より本格体験ができるBコースがあります。
活字を拾い、組み版を作るBコース
Bコースの特徴は、自分で活字を拾い活字をつめて組み版を作ることです。
選べるデザインも14種類とAコースよりも多く、活字は横幅14文字×3列まで組めるので、よりオリジナリティあふれるカードやノートを作ることができます。
使える活字は、ひらがな・カタカナ・アルファベット・数字・漢字(一部)と幅広いので、体験前に印刷する文章を考えておいてくださいとのこと。
カードに印刷を選ぶと、55種類の紙のなかから1種類と「黒」「ゴールド」「シルバー」「マジェンタ」「イエロー」など全12色のインクのなかから1種類選べるので、組み合わせは660通り!
デザインと活字を選べば、決まった構図で印刷するのできれいに仕上がるそうです。
Bコースの料金と体験時間
Bコースの料金も基本料金に紙代(3種類のなかから1種類を選択)をプラスするスタイルです。
項目 | 価格(税込) |
---|---|
基本料金 | 2,200円 |
カード5枚 | 330円 |
A5ノート1冊 | 825円 |
Aコースの体験時間は15分が目安になりますが、Bコースは自分で活字を拾って組み版を作る作業なので、1時間30分ほどかかるそうです。
Bコースは少し時間に余裕を持ってチャレンジしてください。
じっくりと自分で活字を拾って活版印刷を体験したいかたは、Bコースをおすすめします。
ワークショップをしたい!と思ったかたは、各コースとも予約で希望日が埋まっていることがあるため、体験をしたい日時が空いているかどうかを確かめてから事前予約をすることをおすすめします。
活版印刷で名刺も作成できる
活版カムパネルラでは、名刺の印刷も扱っています。
自分でデザインした名刺を自分で印刷するプランもあるので、個性的な名刺が欲しい、印象に残る名刺を作りたいというかたには、活版印刷で作った名刺がいいかもしれません。
デザイン(形式ai アウトライン化済)を持ち込み、店内の用紙を使い自分で手動活版印刷機を使い印刷する「自分で印刷コース」なら、100枚が11,000円(税込)から作成可能です。
自分で100枚を印刷するのであれば、印刷時間は2時間ほどと考えておいたほうがいいでしょう。
初めて名刺交換をしたときに話題になりそうな名刺の素材は、厚紙の切り落としがないタイプ。
この紙は南三陸ののぞみ福祉作業所で作られている手漉き紙「NOZOMI PAPER」です。
全国から送られてくる紙パックを素材にして、1枚1枚ていねいに作られています。
ホワイトの他、コーヒーを混ぜた薄いブラウン、新聞紙を混ぜているグレーはどれも個性的。
少し厚めの紙に凹凸が感じられる文字の名刺はインパクト大ですね。
名刺の印刷もいろいろと要望をきいてもらえるので、興味がある人は問い合わせてみてください。
あたたかみがあるいろいろな商品
活版カムパネルラにある商品にはあたたかみがあります。
メッセージカードや便せん、封筒、はがきなどの活版印刷の紙もの雑貨は、尾道在住のイラストレーターのデザインや、活版印刷所で使われていたレトロな版を使い印刷されているそうです。
トートバッグやエプロンへの印刷は、シルクスクリーンを使った方法で印刷をしています。
動物人形や陶磁器、アクセサリーなど、広島県内の作家が造る作品やデザインプロダクトなども販売されています。
1点ものが多いので、いいなと思ったものは手にしたほうがいいかもしれません。
活字も売られています。
お土産にもいいですね。
2021年3月の新作は、Fujikawa Tomokoさんのイラストを使った「ブックカバー・栞セット」。
取材日当日は、できたてほやほやで値札もまだついていない状態でした。
毎回来るたびに、新しいデザインの商品に出会える活版カムパネルラ。
活版印刷の体験ができる雑貨店は珍しく、どのようにして活版カムパネルラが誕生したのかなどを、スタッフの國近(くにちか)さんに話しを聞きました。
活版カムパネルラのデータ
名前 | 活版カムパネルラ |
---|---|
所在地 | 広島県尾道市東土堂町11-2 |
電話番号 | 0848-51-4020 |
駐車場 | なし 駐車場はないので、公共交通機関か近隣の駐車場を利用。 尾道駅より徒歩10分。 |
営業時間 | 午前10時から午後6時 |
定休日 | なし 年末年始は休業 |
利用料(税込) | 活版印刷のワークショップ Aコース(15分) 基本料金550円(税込)+カード、ノート代 Bコース(1時間30分) 基本料金2,200円(税込)+カード、ノート代 |
支払い方法 |
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予約の可否 | 可 ワークショップは予約なしでも空いていれば可能だが、事前予約をしておいたほうが確実。 |
トイレ | |
子育て | |
バリアフリー | |
ホームページ | 活版カムパネルラ |