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pasión(パシオン)山脇 節史(やまわき よしふみ)さんにインタビュー
井笠・備後地域の食材を使って焼き菓子やシロップをつくる、pasión(パシオン)の山脇 節史(やまわき よしふみ)さんにお話を聞きました。
お菓子づくりの入口はまちづくり
山脇さんはpasiónを始める前はどんなことをしていたのですか
山脇(敬称略)
2017年春にpasiónを始めるまで、さまざまな仕事で全国を転々としていました。
地元の福山で幼稚園の先生をしたり、東京でバスの運転手をしたり、山口などいろいろなお菓子屋さんでパティシエとして働いたり。
日本中をうろうろ放浪しつつ、季節労働で各地の特産品の栽培を体験してまわったり。
海外の文化やライフスタイルに触れようと、ふらっとスペインに行っていたこともあります。
スペインは日本人とまったく違うライフスタイルを確立している国だと思いました。
8時30分オープンのお店でも、9時オープンでOKというおおらかな空気があったり、みんなが楽しそうに仕事をしているのが印象的でした。
「生活を楽しんだり、豊かにするために仕事ってないといけんなぁ」と思いました。
pasiónはスペイン語で情熱、英語でいえばパッションという意味なんですよ。
pasiónを始めるきっかけはあったのですか
山脇
全国や海外へ放浪する日々でしたが、母が脳出血で倒れたのをきっかけに、福山に戻って介護福祉士の仕事をしていました。
地元で自分の経験を活かせないかという気持ちから、2013年に「いかさ田舎カレッジ」という井笠広域観光協会が主催する、地域プレイヤー養成講座に参加したんです。
1年間の講座終了後は事務局として携わり、まちづくりや地域おこしについて学びました。
井笠地域を盛り上げたい仲間や、まちづくり分野の講師のかたと交流を深めるようになって。自分の発想でおもしろいことに取り組むかたが多く、影響を受けました。
そんななか、パティシエをやっていた経験から、笠岡干拓のいちごを使ったケーキづくりの依頼があったんです。
いちご農園では、スーパーマーケットの店頭に並ぶようなジューシーで見た目がきれいないちごだけではなく、生で販売できないごつごつしたいちごができてしまうことが悩みとなっていました。
そういういちごを減らすのではなく、有効活用できないか、おいしく食べられるようにできないかという相談でした。
ごつごつしたいちごは水分が少なく、実は加工に向いているので、おいしいケーキが完成。これが井笠地域の食材を使った最初の焼き菓子です。
まちづくりや地域おこしに関心が向くなか、2015年10月から1年間、井原市芳井町で地域おこし協力隊を経験しました。
芳井町といえば「明治ごんぼう」。標高約400メートルの高原にある細かい粘土質の赤土畑で育つ、いい香りとやわらかな食感が特徴のごぼうです。
地域おこし協力隊になると、それまで以上にリアルな生産の現場を見ることになりました。
高齢化の問題、事業継承など、数多くの課題を乗り越えなければ地域食材のブランディングができないという気づきもあり、自分がどう関わるかを考えさせられました。
自分の得意ごとを活かして、地域の魅力やストーリーをもっと伝えることができないか…。
その頃には明治ごんぼう以外にもいろいろな食材と出会っていました。
ひとつのものを取り組むよりは、地図を描くようなイメージで広くやってみたい気持ちがあったんです。
地域おこし協力隊を2016年に退任し、父の手を借りながら工房をつくりました。
2017年5月にpasiónをスタート。最初は明治ごんぼう、笠岡干拓のいちご、六島の完熟れもん、北木島の甘夏、大江のターメリック、玉島の黒豆の6種類から始まりました。
がつーんと衝撃があるおいしい食材を使う
pasiónの焼き菓子は地域食材の味がダイレクトに伝わってきますが、つくるうえでのこだわりはありますか
山脇
素材の味がそのまま伝えられるよう、生地は甘すぎずシンプルな味にしています。
実は私自身が甘いものが苦手というのもあるのです(笑)
どんな食材でも商品化自体はできるとは思いますが、使う食材は生産されてきた地域の歴史にオリジナル性やストーリーがあるものになっています。あとは育てている人の個性ですね。
そういう食材は、食べたとき「がつーん」と衝撃があるほどおいしいものであることが多いんです。
たとえば、六島の完熟れもん。
きっかけは島のおばあちゃんが大事に育てていた1本のれもんの木だったんです。
たまたま訪れたときに「この木のれもんはおいしい」と話すので、ふざけて「食べてみていいですか」と聞いたんです。
ふつう、れもんは皮ごとだと苦みやえぐみがあって、とてもじゃないけどかじれないもの。
でも、六島のそのれもんは本当にその場でかじれるほど甘く、びっくりしました。
今でも六島の完熟れもんのパウンドケーキはpasiónの人気商品です。
食材との出会いは、こんなふうに自然な流れから。
自分から探しに行くことはあまりなく、地域おこしに関わるかたから「この食材で何かできないかな」と声がかかることも多いです。
食材の良さはお客さんだけでなく生産者にも伝える
収穫から行なうのはなぜですか
山脇
まず、どんな食材でも自ら足を運び、生産者のかたのお話を直接聞きたいからです。
その場で味を確かめ、地域の魅力や食材のできる背景などを肌で感じとることができます。
食材を仕入れるという方法もありますが、やはり現場を見ることでお菓子づくりに感情がこもり、お菓子を通して地域の魅力や地域の様子を伝えていくことができるんです。
あと、どんなに素晴らしい食材でも、木や土壌などの環境による個体差で加工に向き不向きがあるので、現場で食材を選んだり収穫させてもらうことを大切にしています。
また、お菓子づくりを続けるなかで地域へ通い、信頼関係を築くことで、地域がさらに元気になるひとつの要因がつくれたら、という思いもあります。
実際に自分たちが収穫を楽しそうにしているのを知って「私も行ってみたい」という人が出てきたり、「こんなかかわり方があるんだ」と言ってくださるかたも多いです。
地域の人にとっては「おもしろい取り組みで毎年来てくれている」と、その食材の価値をより感じるきっかけにしてもらえます。
あとは、自分自身が収穫をしていて純粋に楽しいからこそ続いているんでしょうね。
自分にとって今のお菓子づくりは、あくまで地域や食材の魅力を多くの人に伝える「手段」だと思っています。極端な話ですが、産地が潤ったならお菓子づくりをやめて別のことを始めてもいいと思っているくらい。
井笠・備後には本当に魅力的な食材がたくさんあります。pasiónを通して多くの人に知ってもらい、同時にその地域について関心を持ってもらえたらうれしいです。
おわりに
マルシェでよく出会うpasiónは、4年前(2017年)に岡山へ移住してきた私にとって「このあたりではこんな食材が有名なんだ!」と発見がたくさんあり、わくわくするお店です。
取材で初めて口にした福山市田尻町の完熟あんずを使ったしろっぷサイダーがとてもおいしかったので、「あんずの花が咲き誇るシーズンに田尻へ行く」という目標ができました。
スペインへ行ったときに山脇さんは「生活を楽しんだり、豊かにするために仕事ってないといけんなぁ」と思ったと言います。
食べるとその地域が身近に感じられるpasiónの焼き菓子は、まさに生活を豊かにするものだと感じました。
まちづくり・地域おこしを経験したパティシエがつくる、色とりどりの焼き菓子。ぜひ食べてみてくださいね。
そして山脇さんから食材の産地のお話も聞いてみてください。
pasión(パシオン)のデータ
名前 | pasión(パシオン) |
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住所 | |
電話番号 | |
駐車場 | あり 出店するマルシェに準ずる |
営業時間 | 岡山県内・備後地域のマルシェに出店 |
定休日 | |
支払い方法 |
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ホームページ | pasión(パシオン)WEBサイト |