自習する場所と聞いて図書館を思い浮かべるのは昔の話。
最近では事情が少し変わってきており、始業前のお店の中や開いている会議室などで高校生が自習する姿が見られます。
自習する場所がない、という高校生の声を受け、町の中に自習できるスペースを作る取り組みをしているのが「STUily(スタイリィ)」です。
これからさらに活動の幅を広げていくSTUily。関わる人たちに話を聞いてきました。
記載されている内容は、2023年2月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
落ち着いて勉強できる場所がない、という悩み
町の中には落ち着いて勉強できる場所がなくて困っている、と2021年の高校生や大学生の創業体験プログラム「Stash(スタッシュ)」であがった声が、STUily誕生のきっかけです。
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、図書館は座席数を大きく減らしています。
席は取り合いになり、待っていても空かなかったり、座れたとしても一緒に行った友達とは離れた席になって勉強を教えてもらえなかったり。
家では勉強しにくい高校生もいますが、カフェなども座席を減らしているため、長居はできません。
なんとか確保できる場所は駅前のベンチやモールの片隅くらい。
高校生たちは、自分たちの困りごとを解消するための事業モデルを発表しました。
高校生の自習スペースを作るプロジェクト始動!
町の中に勉強できる場所、高校生の居場所を作ろう!
地域で頑張る人を応援する一般社団法人ふくやま社中の協力のもと、プロジェクトが動き始めました。
学校が休みの日に高校生たちが集まって、どんな場所で勉強したいか、どんなふうにその場所を作っていくのかなどを話し合い、ルールや名前を決めていきます。
「瀬戸内(STU)の学生が、家族(family)のような心地で勉強(study)したり、教え合ったりする場所」として「STUily」と名付けました。
高校生たちが資料を作り、お店に出向いて自分たちの思いを伝え、協力を依頼。
そして2022年3月17日、STUilyは本格オープンします。
「福山まるごと自習室プロジェクト」STUilyとは?
STUilyはカフェや空き会議室などを自習スペースとして利用し、地域の人から借りた場所に高校生が集まることで、新しい交流と新しい価値を生み出すプロジェクトです。
自習スペースはどこにある?
2023年1月現在、SHIPS(シップス)と呼ぶ協力店は5店です。
一部を紹介しましょう。
BOOK MEETS COFFEE 啓文社BOOK PLUS 緑町
- 住所︰福山市緑町1-30 みどり町モール内
- 利用時間:午後6時~午後9時
- 利用料金:1回200円
アシードホールディングス
- 住所︰福山市船町7-23
- 利用時間:午後4時~午後6時(オープン日はSNSで確認)
- 利用料金:無料
その他のSHIPSについては、STUilyの公式Instagramで確認してください。
STUilyの利用方法は?
2023年1月現在、登録者数は約100名。
2023年1月まではLINEで提携店の空き情報を確認し予約するシステムですが、2月1日より新システムを導入する予定です。
新システムでは、次の手順で利用できます。
- 受付で生徒手帳を提示
- 受付のQRコードをスマホで読み込み、LINE登録
- 登録当日から利用可能
2023年3月1日からは、中学生の利用も可能です。
新システムに関する最新情報は、STUilyの公式InstagramやFacebookで発信します。
自習だけじゃない!学校をこえた自発的なつながり
STUilyは、ただ単に自習スペースを提供するだけのプロジェクトではありません。
STUilyを運営している高校生たちのミーティングでは、さまざまなアイディアが生まれます。
そこから実現したもののひとつが、好きなことで集まれる高校生サークル「mi-na-to(ミナト)」。
デニム部、写真部、筋トレ部など、共通の趣味や興味を持っている高校生が、学校の枠をこえて集まって活動中です。
これらの活動を実行していくには、高校生だけでは難しいこともありますが、大人たちは技術面でサポートしたり、人と人をつなげたりといった部分で手を貸します。
筋トレ部の活動では、トレーニング方法や筋肉をつける食べ物について知りたいとの要望で、高校生と福山シティFCに所属するプロサッカー選手やトレーナーとの間を仲介。
こうして「筋トレ講座」が開かれ、美と健康のためのトレーニング法や食生活についてプロからじっくり話を聞くことができました!
2023年、STUilyセカンドステージ始動!
2023年1月、STUilyは新たなスタートを切りました。
新マネージャーが就任
福山シティFCの隅田航(すみだ わたる)さんをプロジェクトマネージャーに迎えました。
現役のサッカー選手でありコーチも務めていた隅田さんは、優れたコミュニケーション力や行動力の持ち主。
高校生たちの活動を大いに刺激し、前進させると期待されています。
「今は主に自習スペースとして使われているSTUilyですが、これからもっといろいろな活動していきたいと思っています。
まずは、高校生たちにいろいろな話を聞いてみたいですね。
僕は人と会ったり、誰かをつなげたりするのが得意だし、好きなんです。
STUilyをもっとコミュニケーションの活発な場所にしていきたいですし、新しいイベントも企画したいですね。
僕自身も楽しみながら高校生たちの視野が広がるように、関わっていくつもりです」
と隅田さん。
就任からわずか数週間で、どんどん町と高校生をつなげていっているとのことです。
2023年2月に「第1回福山生徒会サミット」を開催
学校をこえて交流してきた高校生たちは、学校ごとに生徒会の活動が違うこと、またそれぞれに課題を抱えていることに気づきました。
ちょうど広島県では、2023年5月にG7広島サミットが開催されることになっています。
自分たちの高校生活をより充実したものにするために、と彼らが企画したのが「福山生徒会サミット」。
各学校の生徒会の取り組みや課題を共有すること、学校をこえて同世代の交流を増やすこと、そして町の人たちや企業とのつながりを深めることが、生徒会サミットの目的です。
また、G7広島サミットを意識し、高校生がグローバルな問題にも興味を持つきっかけも提供します。
- 日時:2023年2月12日(日) 午後1時~午後4時
- 場所:福山市立大学 大講義室(福山市港町2-19-1)
- 内容:
- 第1部 福山市内の高校生徒会による発表。テーマ『自分たちが充実した高校生活を送る為に実現させたいこと』
- 第2部 広島県内の高校生とゲストによるパネルディスカッション。『平和やSDGsについて高校生が考える「今、自分たちができること」』
- 第3部 高校生生徒会メンバー交流会(生徒会・関係者のみ)
- 一般観覧申し込み、詳細はこちら。
STUilyを支える大人たちの思い
啓文社BOOK PLUS 緑町の店長、大江真央(おおえ まお)さんに話を聞きました。
啓文社さんにとって、高校生にカフェを自習室として使ってもらう意義はなんですか。
大江(敬称略)
啓文社は地域密着型の書店ですので、地域のお客さまが望まれるのであれば本の商売以外でもどんどんやっていきたいと思っています。
高校生にとって必要な環境を啓文社が提供できるのであれば、私たちにも喜びです。
もちろん、高校生から参考書のお問い合わせがあれば通常通りに対応できるので、自習スペースと書店は相性が良いと思います。
高校生の反応はいかがでしょう。
大江
高校生の間では口コミでSTUilyが広まってきているようです。
今は、大人もコワーキングスペースやカフェを利用しますし、働き方も勉強の仕方も多様化していますので、そこにうまく啓文社の場所を提供できたらいいなと思います。
若い彼らの順応性は高いですね。
集中して黙々と勉強している人が多いですし、挨拶もきちんとされていて気持ちのよいやりとりができています。
居場所のひとつとして、当たり前に使ってくれるようになっているのですね。
大江
そうですね。隣に友達がいても自分のペースを崩さず進めていますし、最近の高校生はこんなふうに勉強するんだなあと、感心して見ていますよ。
続いて、ふくやま社中の原田裕己(はらだ ゆき)さんに聞きました。
自習スペースの利用状況は。
原田(敬称略)
平日の利用はそれほど多くないのですが、夏休みや冬休みには、朝自習スペースを開けたときから終わるまでずっと使っている高校生が多いです。
一度使った人はSTUilyの良さがわかってずっと使ってくれていると感じています。
ふくやま社中さんは、どんな想いで高校生を支援しているのですか。
原田
高校生たちはこの先、進学や就職のために福山を離れるかもしれません。
けれども、どこで暮らしていても、自分の育った福山にはこんな企業があって、こんな大人がいた、こんなことをしてくれた、という思い出を胸に福山に愛着を持って過ごしてもらいたいと思っています。
このプロジェクトの本質は高校生の自習スペースを作ることではなく、高校生と町をつなぐことなんです。
高校生が抱える困りごとに大人が力を貸し、一緒に問題を解決しながら、高校生の居場所を作ることが重要だと考えています。
あるとき、今日は自習よりもおしゃべりをしたい、とやってきた子がいて、3時間位ただひたすら一緒に他愛もない話をしました。
そうか、STUilyにはこういう使い方もあるな、と。
他人にならちょっとした自分の気持ちを話せるときもあります。
町のなかに、そんな場所があってもいいですよね。
町や人との関わりを通して、福山をもっと好きになる
高校生たちが抱えていた「自習する場所がない」という社会的な課題。
その解決に向けて本気で向き合い、協力してくれる大人たちがいました。
高校生たちがSTUilyを通して町を知り、人を知り、物事を解決する方法を身につけていくことで、福山をもっと好きになっていってくれるといいなと思います。
セカンドステージを迎えたSTUilyで、これから高校生たちがどんな姿を見せてくれるのか、ますます楽しみですね。