保命酒で知られる鞆の浦で、保命酒に次ぐ新しいリキュールが作られています。
福山市内海町と尾道市瀬戸田町で栽培された自然農法の完熟レモンと、オリジナルブレンドの砂糖を材料にした、そのリキュールが「鞆の浦リモンチーノ」です。
それぞれに仕事を持つ女性たちが集まって起業し、鞆町平地区にある築100年を超える風格ある古民家で作っています。
2021年に「福山ブランド」に認定され、福山の新しい特産品となった鞆の浦リモンチーノの豊かなレモンの香りに魅せられて、開発に至ったお話を聞いてきました。
記載されている内容は、2023年8月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
一般社団法人ともののデータ

団体名 | 一般社団法人ともの |
---|---|
業種 | 酒造 |
代表者名 | 村上百合子 |
設立年 | 2017年 |
住所 | 福山市鞆町後地1838-3 |
電話番号 | 090-8244-7156 |
営業時間 | |
休業日 | |
ホームページ | 鞆の浦リモンチーノ |
鞆の浦リモンチーノとは?
日本の家庭で作られる梅酒のように、イタリアの家庭でも作られ親しまれているリキュールが、リモンチェッロ(北イタリアではリモンチーノともいう)です。
鞆の浦リモンチーノの楽しみ方
本来のリモンチェッロはかなり甘いのですが、鞆の浦リモンチーノは日本人の好みに合うよう、砂糖の量を減らしています。
「その分、コクと風味をプラスするために、甜菜(てんさい)グラニュー糖だけでなくきび砂糖をブレンドしているのが特徴」と、鞆の浦リモンチーノを製造している一般社団法人ともの代表理事の村上百合子(むらかみ ゆりこ)さんが、説明してくれました。
おすすめの楽しみ方を聞くと、村上さんの口から次々とおいしそうなレシピが飛び出しました。
- 炭酸割りで
- 缶チューハイに少し足して(香りが本格的になる)
- アサリの酒蒸しに
- 唐揚げの下味に
- 紅茶に合わせて
- スイーツに
ともののホームページではさまざまな楽しみ方を紹介しています。
暑い季節には、水信玄餅もおすすめだそうですよ。

わずか6畳の酒造所

鞆の浦リモンチーノを作っているのは、平日は別の仕事に就いている女性たちです。
10人ほどのスタッフのうち、村上さんを含む5人が栄養士の資格を持っています。
スタッフたちは忙しい時間をやりくりし、週末に鞆の古民家に集まります。
もともと仲の良い友だち同士なので、おしゃべりをしながら楽しく作業を進めているそうです。
築100年を超える風情ある古民家のうち、酒造所の製造スペースはわずか6畳。
おそらく広島県内でもっとも小さな酒造所なのでは、と村上さんは笑います。
鞆の浦リモンチーノができるまで
村上さんたちはなぜ、福山でレモンのリキュールを作るようになったのでしょうか。
その背景をたずねました。
しまなみ海道で出会ったネット売りのレモン
10年くらい前、村上さんが家族でしまなみ海道をサイクリングしたときに、1kgで1,000円もしなかったレモンを見つけたことがそもそもの始まりでした。
買って帰ったものの量が多く、いろいろと使っても「ネタが尽き」てしまいました。
しかし、栄養士の資格を持つ村上さんは、砂糖漬けやアルコール漬けにすれば保存ができると知っていました。
レシピを検索して見つけたのが、レモンのリキュール「リモンチェッロ」だったのです。
試しに作ってまわりに振る舞ったところ、大好評。
それ以来、毎年レモンが手に入るとリモンチェッロを作っていました。

実は私、下戸(お酒が飲めない)なんです!
思わず「下戸なのになぜ?」と聞き返しました。
レモンをアルコールに漬けるとフレッシュな香りがそのまま閉じ込められ、色も残ってお菓子や料理には使いやすいので、作り始めたそうです。
「一般社団法人ともの」の誕生

そのうち、振る舞っていた人たちから口々に「これは売れるんじゃない?」と言われたことがきっかけで、商品化を考え始めます。
調べてみると広島県の特産品として、レモンを使った製品はさまざま作られていたものの、リモンチェッロを作っているところは他にありませんでした。
また、福山市は「備後ワイン・リキュール特区」に認定されていて、少量のリキュールづくりに取り組めることも、村上さんの背中を押しました。
酒造の免許を取った業者しか、お酒は作れません。
つまり、レモンを使ったスイーツなどと比べると、ライバルが格段に少ないのです。
リキュールを作るなら鞆だと村上さんは考えて古民家を改築し、仲間たちと一緒に会社を起こしました。
鞆は、長年保命酒を作ってきたリキュールの町であり、観光の町でもあります。
スタッフはみな、メインの勤めを持ちながら、週末に副業として参加しています。
子育ても一段落した女性たちが楽しみながら作っているリキュールだからこそ、鞆の浦リモンチーノを飲むと幸せな気持ちになれるのかもしれません。
鞆の浦リモンチーノの作り方
鞆の浦リモンチーノは、自然農法(土作りに力を入れ、植物の力を引き出して無農薬・無肥料で育てる農法)で栽培されたレモンの皮から作ります。
レモンの収穫期は冬です。
木になったまま完熟するのを待ち、一番おいしい状態で収穫します。
完熟レモンは、レモン独特の酸っぱさのなかにほのかな甘味があり、皮の黄色も濃くよい香りがして、いいリキュールになるのです。
500kg以上のレモンを1つずつ手作業でていねいに皮をむき、高濃度のアルコールに漬け込んで原酒を造るまでが冬の作業です。
度数の高いアルコールを使って作るため、作業中には室温でアルコールが蒸発してしまいます。

いくら換気をしてもその場の空気を吸うだけで酔っ払ってしまうし、味見をするのも命がけです(笑)。
実は、作っている仲間たちも私と同じ下戸なんですよ。
その後、水と砂糖で作ったシロップと合わせて、鞆の浦リモンチーノができあがります。
アルコール度数は29度。
福山の特産品としてふさわしいものになるよう、福山の「29(フク)」にこだわりました。
少し濁って見えるのは、アルコールに溶けたレモンの皮の油分がシロップに触れてエマルジョン化(乳化)するから。
黄色は光に当たると退色しやすい性質があり、作って1年も経つと色が薄くなってしまいます。
そのため、作り溜めはせず、少しずつ作るようにしているのです。

自然農法のレモン

レモンの皮を材料にするからには、無農薬のレモンを使うのは当たり前、と村上さんは語ります。
農薬はアルコールに溶けやすく、アルコールは体に吸収されやすいため、わずかでも農薬を使ったレモンを材料にすることは考えられませんでした。
しかし、レモンの生産量全国一の広島県でも、無農薬でレモンを作っている農家はそれほど多くありません。
そのなかで、2軒の農家と契約できたのは不思議な縁でした。
自分がやりたいことを周りに伝えていると、向こうから道が開けてくるものなのでしょうか。
自然農法でレモンを作っている農家を紹介してくれる人が現れました。
また、行き当たりばったりで飛び込んだ先の農家は、看板も出ていないような自然農法のレモン農家に巡り合わせてくれたのです。
自然農法のレモンは、一般のレモンと比べて皮が厚くて香りが強く、鞆の浦リモンチーノを作るのに適しています。
レモンの皮の香りの成分であるリモネンには、抗菌作用があります。
自然農法のレモンは抗菌力が強く、多くは室内に長期間置いても腐ったりカビたりせず、そのまま乾燥してドライレモンになるほどです。
植物の生命力を高める自然農法のレモンだからこそ、香りのよい鞆の浦リモンチーノになるのですね。
鞆の浦リモンチーノ販売開始

ようやく販売の準備が整ったまさにその頃から、新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい始めました。
全員が集まって作業することも、お披露目のためのイベントもできない状況のなか、2020年4月に販売をスタートさせます。
インターネットでの情報発信
営業が苦手だった村上さんたちは、備後地域のビジネスを支援するFuku-Biz(フクビズ)の協力を得て、ホームページやInstagramを立ち上げ、自分たちで情報発信を始めました。
並行してインターネット通販だけではなく、直接販売のルートも開拓していきます。
2020年7月、最初の販売は道の駅アリストぬまくまでスタート。
その縁で、道の駅さんわ182ステーションや神石高原ティアガルテンからも声がかかり、商品を置いてもらえるようになりました。
しだいに、観光地である鞆でレモンのリキュールを作っている人たちがいる、と認知されるように。

保命酒の入江豊三郎本店の社長さんに声をかけてもらって、2021年の4月から本店と渡船場店で販売させてもらえるようになりました。
ついに、鞆で直接お客さまに手に取っていただけるようになって、本当にありがたかったです。
現在の取扱店舗はこちらを見てください。
みんなでパッケージをデザイン

おしゃれな形の瓶に入った黄色い液体と、青いラベル。
一度見たら忘れられないこのパッケージデザインは、仲間たちみんなで考えたものです。
レモンとしまなみ海道の自転車を組み合わせ、瀬戸内海と空の青を取り入れています。
女性をターゲットに、かわいらしく楽しい雰囲気に仕上げました。
ラベルの文字は、書家の相原雨雪(あいはら うせつ)さんの手によるもの。
村上さんのお父さんと同級生で以前から交流があった相原さんに、いくつものパターンを書いてもらったなかから、この字を選びました。
相原さんはそもそも中国の漢字を前衛的に書く人なのですが、「鞆」という字は日本で作られた字。
だから「このラベルの『鞆』の文字は、俺のオリジナルだぜ」と相原さんはうれしそうだったとのことです。
福山ブランドに認定

2014年から始まった「福山市都市ブランド戦略」に基づいて、毎年募集されるようになったのが「福山ブランド」です。
福山で生まれた商品やサービス・活動のなかから、魅力あるものを認定・登録するこの制度も、2020年はコロナ禍で募集そのものがありませんでした。
2021年に応募したときには、認定してもらえる自信はなかったものの、ずっと手伝ってくれていた仲間たちのためにも、自分たちの作っているものを見てほしいと思っていた村上さん。
もし、これで地元の特産品として認めてもらえないのなら深追いするのをやめて別のことをやろう、時代が悪かったと思おう、と区切りをつける気でいました。
その結果、砂糖を減らすだけではなくブレンドしている点や、仕事を持っている普通の女性たちが作っている点、味の良さなどが評価され、見事第7回ふくやまブランドとして認定されたのです。

認定されたからといって福山市が商品を売ってくれるわけではない、というのは認定された後に知りました(笑)。
それでも、私たちも福山ブランドをもらえたことで自信がついて、「うちのお酒、福山ブランドになっているんですけど、どうですか」と言えるようになりました。
この認定によって鞆の人との付き合いが広がり、その知り合いの知り合いとつながって、物事が動き始めたのだそうです。
テレビ番組の取材を受けたり、イベントに声がかかるようになったりと、認知度がどんどん高まっていきました。
福山市のふるさと納税返礼品にもなっています。

今後の展開

鞆の浦リモンチーノはレモンの皮が材料です。
気になっていたレモンの「果肉」の行方をたずねてみると、果肉を使った新しいお酒の開発のために保管してあるとのこと。
コロナ禍では新しいお酒を出せる状況ではなかったのですが、今年(2023年)こそはと試行錯誤中だと聞き、ワクワクが止まりませんでした。
食事にも合うようなレモン果汁の酸味がきいたお酒の登場が、待ち遠しいですね。

取材時に、チーズケーキを出してもらいました。
アルコールを飛ばした鞆の浦リモンチーノを、風味付けに入れてあります。
フタを取った瞬間にレモンの香りがかすかに立ち上り、一口食べるととても品のよい味がしました。
鞆の浦リモンチーノは、スイーツに使ったときにその真価を発揮するように感じます。

下戸の私たちが空気を吸うだけで酔っ払ってしまいながらもリキュールを作っているのは、本当はスイーツや料理を作りたいからです。
焼きリンゴやカスタードにも合い、乳製品との相性はすごくいいそうです。
オリーブオイルとバターに、アサリとにんにくを合わせてもおいしいのだとか。
飲めないからこそ、他のことで使う方法を考えている村上さんたちは、スイーツをテイクアウトできるような新しい事業を計画中!
まだ公表はできませんが、近いうちに鞆でおいしいレモン風味のスイーツに出会えるようになりそうです。
鞆の浦リモンチーノが人の輪をつなぐ

自然農法のレモン農家、リキュールの町である鞆、おいしいスイーツや料理のレシピがどんどん出てくる栄養士たち、福山の魅力を伝えたい行政など。
さまざまな人や要素がつながって、今の鞆の浦リモンチーノがあります。
果肉を使った新しいリキュールや新しいスイーツなど、これからの展開が楽しみですね。
福山の新しい特産品である鞆の浦リモンチーノがさらに人の輪をつないでいき、福山がもっともっとおもしろくなる気がしています。
一般社団法人ともののデータ

団体名 | 一般社団法人ともの |
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業種 | 酒造 |
代表者名 | 村上百合子 |
設立年 | 2017年 |
住所 | 福山市鞆町後地1838-3 |
電話番号 | 090-8244-7156 |
営業時間 | |
休業日 | |
ホームページ | 鞆の浦リモンチーノ |