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『本屋で待つ』刊行トーク@本屋UNLEARN ~ 話題の本で考えた 地域の書店とつくる 語らいの場

『本屋で待つ』刊行トーク@本屋UNLEARN ~ 話題の本で考えた 地域の書店とつくる 語らいの場

伝えとこ / 2023.02.27

店舗を構えた本屋に、どのくらいの頻度で行きますか。

では、チェーン展開する複合書店ではなく、書棚に並ぶ本について、それらを選んだ店員と少し踏み込んだ話ができる(できそうな)本屋はどうでしょう。

近年の状況から、現在はそうした本屋を利用しなくなって久しいかもしれません。

今回は、まちから店舗が消えつつある一方で、それでも存続感を高めようと模索する本屋についての記事です。

話題の新刊から、ひと、あるいは地域との間で書店が果たせる役割について考えてみました。

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記載されている内容は、2023年2月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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『本屋で待つ』刊行記念トークイベント

2023年2月11日(土)、福山市東深津町の「風の丘 Book&Cafe」で、『本屋で待つ』(佐藤友則島田潤一郎共著)の刊行を記念したトークショーが開催されました。

「風の丘」看板

本屋UNLEARN(アンラーン)」が主催し、聞き手を店主の田中典晶(たなか のりあき)さんが務めた、佐藤友則(さとう とものり)さんとの約2時間の対談です。

2022年12月に刊行された佐藤さんの著書をもとに、20名ほどの参加者を集めて、地域に根ざした書店経営、本屋の看板をあげ続ける理由、人(従業員)の育てかたなど話題は多岐におよびました。

「カフェ風の丘」サロン空席

イベント主催は郊外の小さな書店 「本屋UNLEARN」

JR福山駅から東へ約2km(徒歩約30分)、東深津町に「本屋UNLEARN」はあります。

アンラーン外観

「福山暁の星女子中学・高等学校」の校舎などが建つ小高い丘の上、カフェやシェアサロンを併設する「Work & Life Base 風の丘」内にある12坪ほどの店舗です。

「風の丘」外観

店主の田中さんは、この店を開くまで、長らく高校の教員を務めていました。

開業の際に目指したのは、仕事帰りにふらりと立ち寄れる本屋。

コロナ禍の影響を受けながらもオープンから2023年1月で3年をむかえ、地域の中でその価値を認められる環境を取り戻しつつあります。

入口と書棚

屋号のアンラーン(=学びほぐす)は、思想家の鶴見俊輔(つるみ しゅんすけ)が、留学先でヘレン・ケラーに掛けられた言葉に由来。

田中さんは「ことば」とは、本の情報や知識である前に、ワクワクする体験」だといいます。

その体験ができるのは、必ずしも大量の冊数を誇る施設とは限らないとも。

平積み台

誰か(書店員)に選ばれた本や並び順、装幀(そうてい:カバー、表紙、見返し、扉、帯、外箱)や紙の質感に触れて確かめるうちに、その本が読みたくなる。

そこには「語らい」があり、沈黙の中にある(選書を通じた)豊かな語らいを田中さんは大切にしているのです。

「アンラーン」看板

店内には歴史・思想といった人類の叡知を抽象的に捉える本もあれば、生活に密着した衣食住に関する本もあります。

そんな振り幅をもった数千冊の本が、工夫を凝らされ陳列された書棚は、目的の本がなくても見飽きることはありません。

すべて店主の目の届く範囲にあるので、田中さんとの会話を楽しみながら、あなたにとっての一冊に出会えるかもしれません。

住宅地の先に山陽新幹線の高架を望める
住宅地の先に山陽新幹線の高架を望める
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『本屋で待つ』で語られていること(あらすじ)

昨年(2022年12月)に刊行された『本屋で待つ』は、どのような本なのでしょうか。

著者は、広島県庄原市の書店「ウィー東城店」を営む佐藤友則さん。

佐藤さんの話を2年にわたって聞き、「夏葉社(なつはしゃ)」の島田潤一郎(しまだ じゅんいちろう)さんが本書にまとめました。

「本屋で待つ」アップ

人口約7,000人の庄原市東城町にある「ウィー東城店」。

老舗書店の長男(4代目)である佐藤さんは、住民の困りごとに親身になって耳を傾けつづけ、赤字続きの本屋を立て直します。

お客さんの相談内容は、「電化製品がこわれた」「年賀状の字がもう書けない」「普通免許をとりたいけど、母国語のポルトガル語しか読めない」など。

どれも、まちの本屋に持ち込まれる案件としては、想定を超えるものばかり。

しかし町の人びとは、本屋へ行けば、ウィー東城店なら、解決につながるはずと考えて来店を繰り返したのです。

そうした本への信頼、また本を売る人への信頼を住民が共有し、ウィー東城店を型破りな店に変えていきます。

イベント告知看板

ウィー東城店の店舗は、本だけでなく、CD、たばこ、化粧品の販売、年賀状の宛名印刷や写真の焼き増しサービス、コインランドリー、美容室、そしてパン屋まである超複合型。

それはもちろん経営者の才覚だけではなく、地域の声を真摯に受けとめた結果が生んだ営業形態というわけです。

「ウィー東城店」の佐藤友則さん
「ウィー東城店」の佐藤友則さん

さらに目を見張るのは、ウィー東城がよろず相談を受け入れるなかで、不登校を経験したまちの若者たちを雇用し、社会へ出るための支援をしていること。

やがて本に囲まれた店内で、本を求める客と会話することにより、若者たちの傷ついた心が少しずつ治癒されていきます。

いうなれば『本屋で待つ』は、これまで地域、本屋、人々の変化をつぶさに見てきた佐藤さんの体験記なのです。

また作風に寄り添った装画・挿絵は、『急がなくてもよいことを』で知られるマンガ家ひうち棚(たな)さんが手がけています。

「本屋で待つ」平積み

『本屋で待つ』が刊行にいたるまで

地元への献身的な姿勢や書店業界の知名度から、本書が執筆されるまで佐藤さんに関する本を出版しようと考えた人がいなかったとは思えません。

ビジネス本の体裁で、その独自の取り組みについて書籍化する案はいかにもありそうです。

なぜ今回、夏葉社の島田潤一郎さんとの共著によって、出版にいたったのでしょうか?

「カフェ風の丘」から通路を望む

佐藤さんと島田さんは、もともと10年来の知り合いでした。

販売と出版という本に対する立場の違いこそあれ、同い年で、似たような感性を共有していたそうです。

また人違いされるほど、容姿がよく似ていることも、2人を親しくしたエピソードとして語られていました。

聞き手は「本屋UNLEARN」の田中典晶さん
聞き手は「本屋UNLEARN」の田中典晶さん

きっかけは、「佐藤くん、本書かない?」と島田さんが言った一言。

佐藤さんは島田さんが編集するなら、夏葉社の本なら、長く読み継がれる本になると考え、オファーを受けます。

聞き書きという形で、やり取りを重ねながら、2年の年月をかけて本はていねいに編まれていきました。

一気に書くのは違う、という島田さんの考えから、効率的な方法はあえて避けたのだそう。

それは純文学の復刊も手がける島田メソッドだったのでしょうか。

佐藤友則さんしばし黙考

書き上がった文章を読んで、その理由がよくわかったと佐藤さんは言います。

島田さんらしいあたたかい文章には、自身の口から語られなかった、当時の心情までありありと綴(つづ)られていたのです。

「もう一人の私が書いたのか」という感嘆の声が聞こえてきそうな、行間を読むことに長けた共著者があってこそ、本作は完成にいたりました。

2人の深い関係性なしに世に出ることのなかったのが、『本屋を待つ』なのです。

熱心に聞き入る観客
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共著者・島田潤一郎さんのこと

ここで、本書『本屋で待つ』の共著者について少し触れておきます。

東京・吉祥寺で、出版社「夏葉社(なつはしゃ)」を経営する島田潤一郎さん。

編集経験を積まず出版社を起こし、編集だけでなく、営業や経理も1人でおこなっています。

いわゆる「ひとり出版社」といわれる夏葉社の編集方針は、知り合いの書店員、読者の趣味嗜好(しゅみしこう)を想像し、誰かひとりに手紙を書くようにというもの。

そうした島田さんの想いを色濃く反映させながら、ていねいに本はつくられています。

ギャラリー・スペース

これまで芥川賞作家・庄野潤三(しょうの じゅんぞう)の小説選集などの復刊を含め、40点近くの本を出版。

UNLEARNの田中さんも、夏葉社(島田さん)の丁寧な本づくりを大いに評価する人。

島田さんの仕事には、本をひとりからひとりへ届ける姿勢が、その内容や装幀、流通にあらわれています。

取次を頼らない直取引で仕入れられる点にも、本を対面で売る、書店にリスペクトが感じられるのです。

読者や小さな本屋にしっかりと向きあった本づくりに、こちらも売り上げでこたえようと思い、夏葉社の本を何種類も仕入れています。

わたしのような考えで、夏葉社を支持する小さな書店は多いのでは、と田中さんは語ってくれました。

小さな書店や読者をなおざりにしない島田さんの姿勢が、本の存在価値を維持しているのです。

今後は本の作り手と売り手のパーソナルな関係から、「本屋で待つ」のような良書がもっと生み出されるかもしれません。

「風の丘」エントランス

本屋は町の中心になれる

「本屋は町の中心になれる」という思いで、佐藤さんはこれまで本屋を経営してきました。

本はそのかたち(定型物)のなかに、あらゆるジャンルの素材がつまっている。

また本はそこに書かれたもの、編まれたものと軽やかにつながることができる。

そうした多様で柔軟性をもつ本を扱う本屋だからこそ、町の中心的な存在となり、いわば最後の屋業として、あらゆる商売の受け皿になれる、と。

それは経験をともなって確信をえた実感なのです。

佐藤友則さん身振り手振りを交え

とくに、人口減少や高齢化が進んだ東城町では、その効果が顕著に現れています。

いま、東城が直面していることは、他の自治体が今後向き合うことになる課題を先取りしているともいえるでしょう。

そうした意味でも、示唆に富んだ内容の本です。

中央書棚3本
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本屋はサードプレイスにもなれる

「本屋UNLEARN」の田中さんは、本との間にそれを読みたくなる動機につながる「沈黙の語らい」があるといいました。

「語らい」の意味を調べると、「(家族や友人などごく親密な間柄で)うちとけて親しく言葉を交わすこと」とあります。

『本屋で待つ』は、「ウィー東城店」の佐藤さんと「夏葉社」の島田さん二人の「語らい」のなかで生まれた本です。

今回、2時間にわたるトークイベントでも、『本屋で待つ』を話題の中心に据えた「語らい」がありました。

それは親密な間柄でなくても、社会的地位にこだわらず話ができる、本のもつ「語らいの誘発力が働いていたからという気がします。

トーク終了後のカフェスペース

家庭や職場(学校)以外の、個人にとって居心地のいい場所をサード・プレイス(第3の場所)といいます。

とくにコロナ禍以降、注目されるようになりました。

地域の本屋をサードプレイスとして、普遍的な価値をもつ本をもとに語らえば、変化の激しい時代に応じた自分の在り方を見つけられるかもしれません。

本屋UNLEARN(アンラーン)のデータ

名前本屋UNLEARN(アンラーン)
期日平日・土曜日 12:00~19:00、日曜 12:00~18:00
場所広島県福山市東深津町6丁目3-58
参加費用(税込)
ホームページUNLEARN Books
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久米真也

久米真也

備後ふくやま在住。「高梁川流域ライター塾」受講。目を向けられなくなった地域の特徴から、実は今でも(今だから)、何らかの価値を見出すことができる。そうした視点で取材をしていきたいと思います。

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