福山市には、どれだけの空き家があるか知っていますか?
平成30年の総務省のデータによると、福山市の空き家は約3万戸。
一方で、家を借りたいけれど住むのに適した家がなく、移住をあきらめる人もいます。
空き家をもっと活用できるようにする仕組みが必要です。
空き家となった古民家の屋根修理に、福山市立大学の学生たちと教授、そして地元企業の藤井製瓦工業と大和建設が取り組んだようすをレポートします。
記載されている内容は、2022年10月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
古民家の屋根改修ワークショップ
2022年9月10日、福山市山野町の古民家に学生たちの声が響きました。
彼らは「山野古民家と暮らし研究会(通称DOFY)」のメンバーです。
DOFYには、まちづくりや建築などに関心を持つ、福山市立大学の学生たちが参加しています。
学生たちを指導しているのは、都市経営学部の岡辺重雄(おかべ しげお)教授、そして、ワークショップに協賛している藤井製瓦工業の工事部部長 森本益史(もりもと よしふみ)さんと、大和建設の川崎彩乃(かわさき あやの)さんです。
また、大和建設の建築部長 柏原一郎(かしわばら いちろう)さんには、建築工事全般の指導や資材提供でお世話になりました。
9月10日から4日かけて、雨漏りがひどくこのままでは住めない古民家の屋根を修理しながら、家主や地域のかたと一緒に空き家の保全や活用について考えていきます。
1日目
最初は足場を組むところからのスタートです。
学生たちにとっては何もかも、初めてのことだらけ。
少し時間はかかりますが、とても楽しそうに作業しています。
大学の教室の中だけでは経験できないことを現場で学びたいと、このワークショップに参加しているのです。
足場ができたら、雨漏りしている部分の瓦をはがします。
この古民家の瓦は、地元の粘土を焼いて作ったもの。
曲がったりねじれたりしたところがあり、一つとして同じ形のものはありません。
うまく重ねていかないと、隙間ができてしまいます。
一方、現代の瓦はJIS規格で大きさがはっきりと定められており、どれも同じ仕上がりなので、どこかの家で使われていた瓦を別の家で使うことも可能です。
学生たちは、森本さんの話を聞きながら、瓦の歴史を肌でしっかりと感じているようでした。
はがした瓦は1枚1枚ていねいに下ろして、順番に並べておきます。
貴重な古い瓦です。
瓦を落とさないように、手元と足元に神経を集中して作業を進めました。
この古民家を守ってきた風格を感じますね。
続いての作業は、土の除去です。
築50年以上の瓦屋根では「土葺き(つちぶき)」と呼ばれる工法がとられています。
土で瓦を留めるのです。
この土は雨を吸収する役割も果たしています。
年月を経て、すっかり固くなっている土を砕いて取り除くのは、力のいる作業です。
土を全て取り除くと、屋根板が現れました。
屋根板と垂木(たるき)がすっかり朽ちてしまっています。
新しい屋根板と交換するために、朽ちた板を切り取りました。
2日目
この日の作業は、屋根下地の再生です。
電動工具を使い慣れていない学生たちはドキドキ。
なんとか無事、垂木と屋根板を交換しました。
3日目
いよいよ瓦の葺き直しです。
土には、藁(わら)と水を混ぜます。
地域のかたの協力で、土の準備ができました。
少しでも長持ちするように防水紙を貼ります。
竹を水平に固定するのは、防水紙を止め、瓦を銅線で固定するため、そして土が流れ落ちないようにするためです。
土と瓦をのせていきます。
古い瓦は元通りの組み合わせで並べていかないと、隙間ができてうまくはまりません。
4日目
トタンの庇(ひさし)を取り除き、雨樋(あまどい)を付けました。
完成です!
雨漏りしていた古民家の屋根が、学生たちと地域のかたたち、そしてプロの手で生まれ変わりました。
おまけ:昼休憩
山野町での活動の楽しみは、みんなで食べるお昼ごはん。
DOFYが活動拠点として借りている古民家の庭で、ストーブに火をおこします。
ピザやおにぎりを焼くのが定番メニュー。
頑張ったあとのピザは格別です。
食事の合間に、岡辺教授のミニ講義が始まりました。
「知ってるかい?山野の人はすごいの。
なんと大正11年に山野町にあった524軒の農家の記録が残ってる、間取りまで全部、詳細に。
こんな記録は他のところでは見つかっていない、とても貴重な資料なんだ。
なぜこんな記録が残っていると思う?」
「そう、このころ家屋税の税制改革があって、家屋税の扱いが県に移管されたんだ。
その税額を決めるために、山野の人は全部の家を調べて記録をつけたんだよね。
当時の税は、皆で公平に出し合う賦課方式(ふかほうしき)がとられていて、農地面積と家屋の資産価値とを判断するために調べられたものらしい。
他のところでは、簡単な聞き取り調査くらいで税額を決めていたみたいだ」
「その大正11年の記録に、屋根を葺き替えた民家は載っていない。
だからおそらく、昭和初期の建物だと考えていい。
この地域の農家建築の完成形と考えていいだろうね」
空き家問題とは
人口の減少や少子高齢化、地方から都市部への人の移動などによって、空き家が増加中です。
空き家の持ち主が遠方に住んでいたり、相続の際に持ち主がわからなくなっていたりすると、空き家の管理ができなくなり家が傷んでいきます。
空き家の傷みが進んでいくと、倒壊の危険はもちろん、治安の悪化や不衛生な状態を招くことも。
平成30年の福山市内の空き家率(すべての住宅の数のうち、空き家が占める割合)は、13.9%にものぼっているのです。
山野町にも何軒かの空き家があり、豊かな自然に惹かれてこの土地への移住を考える若者もいます。
しかし、貸せる状態の家はゼロです。
貸したくないわけではない、けれども貸せない、という現実があります。
それには主に3つの理由がある、と山野町の空き家バンクに関わる三木さんと水田さんは話してくれました。
1つめの理由が、高齢化です。
古民家の持ち主や関係者の多くが、80歳近くになっています。
これまでできていた家の管理が、できなくなってきているのです。
2つめは、仏壇や墓じまいの問題。
家の中に仏壇が残されている空き家があります。
墓についても同様です。
このままでは借り手がつきませんが、仏壇や墓を動かすのは簡単ではありません。
3つめは、家の改修にかかる費用負担の問題です。
行政から補助金が出る制度はありますが、申請のタイミングや補助できる数が限られています。
また、費用の全額が補助されるわけでもありません。
家の持ち主にとって、住んでもいない田舎の家に多額の費用はかけられないのです。
空き家問題の解消へ向けて
空き家の改修には、どれだけの費用がかかるのか。
それを明らかにして、空き家問題の解消へ向けてのモデルケースとするのが、ワークショップの目的です。
- 「思ったよりも木が腐っていました。疲れましたが、いい経験でした」
- 「準備の大切さがわかりました」
- 「職人の技術を間近で見ることができて勉強になりました」
次代をになう学生たちは、4日間のワークショップを通して多くのことを学んだようです。
DOFYはこのワークショップだけではなく、継続的に山野町に関わってきています。
ソバの栽培も、その一環です。
2022年もソバを作りました。
11月に行われる「おやまのいろどり秋市」で、学生たちがソバをふるまう予定です。
- 日時:2022年11月20日(日) 午前10時~午後2時
- 場所:山野農村公園(福山市山野町大字山野1894)
- 詳細:おやまのいろどり秋市のFacebookページ
このワークショップをはじめ、山野町での活動を通して、これからの社会を支えていく学生たちが空き家問題について考え続けています。
社会全体が知っていくこと、関心を寄せていくことが、問題の解消へとつながっていくのではないでしょうか。