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「尾道あづみ麦酒醸造所」の田上さん、前田さんへインタビュー
まず、田上さんが尾道でビール造りをしようと思ったきっかけを教えてください。
田上(敬称略)
私は福山市出身なんですが、隣の市である尾道には学校の遠足で訪れたくらいでまったく来たことがなかったんです。
初めて尾道に遊びに来たのは6〜7年前。29歳のときに尾道で初めて入った店が「Beer Bar a clue」(ビアバークルー。商店街にあるビールバー。以降「clue」と表記)でした。
クラフトビールと出会ったのもclueで、それ以来店に通うようになりまして。
clueに通ううちにクラフトビール好きの仲間と出会うことができましたし、私自身いつしか「尾道で働きたい」と思うようになっていましたね。
林さん(clueのマスター)のことは、尾道にクラフトビール文化のベースを敷いてくれた第一人者だと思っています。
そして実際に尾道でビール造りに携わることになるんですね。
田上
clueで飲んでいるときに「醸造所ができるらしい」とたまたま耳にしたんです。
「これだ!」と思って自分から手を挙げて、やらせてもらうことになりました。
醸造については広島県内の醸造所で修業したんですが、同じ時期には料理長として飲食店で料理もやっていました。
田上
32歳くらいのときに仕事を辞めてビールを学び始めました。「勉強の期間」だと思ってやっていたので、この先どうなるのかといった不安は特にありませんでしたね。
朝はビールを造って、昼から夜にかけては料理を作って。
今後はそのときの料理の経験も活かして、応用的にあづみ麦酒醸造所の事業を広げていけたらと思っています。
自分が関わった商品がほかの人に喜ばれる体験は、誰だってうれしいもの
新たに尾道あづみ麦酒醸造所をスタートさせるまでにどんな苦労がありましたか?
田上
完全にゼロからのスタートだったので、バケツ1個を自分たちで買うところから始まりました。
使うことになった醸造機器も初めてのものだったので、自分から研修に参加して学んだり調べたりして少しずつ覚えていきましたね。
さらに全国の就労支援を見渡しても、クラフトビール造りはまだそう多くはありません。
施設利用者とどうやって連携していくか。社会や地域との接点を増やすには何が必要なのか。どんな作業がやりがいにつながるのか。
今も一つひとつ自分たちで模索していて、新しいアクションにもどんどんチャレンジしています。
チャレンジといいますと、たとえばどんなことをされていますか?
田上
まず、最近では自家製ホップの栽培を始めました。施設の敷地内や市内でホップを栽培してビール造りに使います。
ホップの栽培や収穫ってものすごく手間がかかるんですが、使う原料やビール造りの作業内容にまでこだわっていきたいので。
2021年10月初旬に発売予定の新作は生のホップをイメージしています。今回はホップのイラストを6名の利用者さんに描いてもらい、それを6種類のラベルにすることにしました。
利用者のイラスト、ホップだからといって当たり前にグリーンを使うのではなく、さまざまな色で表現されていたりしてめちゃくちゃかっこいいなと思いました。
このビールは、6種類をセットにした販売も予定しています。生ホップの時期、年1回の季節ビールとして定着していけばいいなと思っています。
利用者のかたも積極的にビール造りに関わっているんですね。
田上
就労支援の作業ってこれまで裏方仕事が多いのが現実でした。
でも自分たちが関わってきたものを誰かが手に取ってくれて喜んでもらえるって、シンプルにうれしいことですよね。
クラフトビール造りを通して、普段利用者がどんな作業をしているのかを知ってもらい、地域との交流のきっかけになればと思っています。
造ったビールが愛されることでやりがいにつながっていく
いつもどれくらいの人がビール造りの作業をされていますか?
田上
作業には私や職員がついて、いつも利用者5〜6人と一緒に作業しています。
利用者のかたはビール造りでどんな作業に関わっているのですか?
田上
ビール造りには細かい作業が多いので、分担して作業を行なうにはかなり適しているんですよね。
たとえばタンクの洗浄や、ビール瓶のラベル貼り、梱包など、連携しながら一つひとつていねいにつくり上げています。
最近では使い終わった瓶を回収して、リユースするという試みも始めました。
専用の薬品を使って1本1本手洗いするので、実は機械で洗浄するよりもきめ細やかに洗えるんですよ。
今後もあづみビールとしては環境に配慮した取り組みを進めていきたいですし、そういった有意義な取り組みに関わることによって、作業をする利用者のやりがいにもつながれば、という思いはあります。
さらに、ビールを売って出た利益は利用者の工賃として還元されます。
就労支援の本質的な目的って、作業に関わっている利用者の工賃が上がることなんですよね。
愛されるビールを造って多くの人に飲んでもらい、やりがいを担保しつつも工賃に還元されるような仕組みとサイクルをこれからも模索していきたいと思います。
工賃:福祉用語。就労者が生産活動を行なったときに支払われるお金のこと
2020年のスタートからコロナ禍が続いています。どんな影響がありましたか?
田上
地域との交流を増やすべくさまざまなイベントを予定していましたが、それができなかったというのは大きいですね。
本当はあづみビールを置いてもらっているスーパーマーケットのイベントでチラシを配ったり、醸造所前でビアガーデンのようなイベントを開催したりしたかったんです。
というのも、醸造所はガラス張りでオープンなんですけど入り口は施設なので、なかなか「ビールが買える場所」と認識してもらえない、お客さんが入りづらいといった課題があって。
もっと気軽に買いに来ていただけるように工夫していきたいと思っています。
「尾道はクラフトビールがアツい」と思ってもらえたら
ビール造りへのこだわりを教えてください。
田上
尾道産のものにこだわって、ビールが苦手な人からビール好きのかたにまで幅広く楽しんでもらえるようなビールを目指しています。
特にフルーツビールにはこだわりがあって、そのフルーツをしっかり感じられるようなものを造っています。
これまで造ってきたなかで好きなビールや思い入れのあるビールはどれですか?
前田(敬称略)
一番は「尾道ホワイトエール」。オレンジの味や香りが抜群です。
この前できた「ぶどうエール」もおすすめ。ワインみたいで飲みやすくてとてもおいしい。
田上
あづみビールの定番をひとつ挙げるなら「尾道ペールエール」かもしれませんが、個人的に思い入れが強いのは「尾道IPA」ですね。
クラフトビールを好きになったきっかけが、clueで飲んだIPAだったんですよ。
IPAを自分で造ったとき、ひとつ目標を達成できた気がしました。
「尾道IPA」は季節限定ビールなので、通年販売はしていません
ビール造りへの想いや今後の展望を教えてください。
田上
ビール造りでいえば、「おいしい」と思ってもらえる、ずっと飲んでもらえるビールを造っていきたいです。
「尾道って、クラフトビールがアツいよね」と思ってもらえたら、ものすごくうれしいですね。
おわりに
尾道あづみ麦酒醸造所で印象的だったのは、施設利用者の就労支援について。
自分が携わったビール造りが誰かに喜んでもらえる、自分の描いたイラストがビールのラベルになる……そんな“自分事”の活動を通して、前田さんは作業を楽しんでいたように思えました。
そして筆者は尾道に来てまだ半年ちょっとですが、移住してからというもののクラフトビールに接する機会が格段に増えました。
振り返ってみると、「尾道あづみ麦酒醸造所」の田上さんとも、以前取材した「尾道ブルワリー」の佐々木さんご夫妻とも、初めてお会いしたのはビールバーの「Beer Bar a clue」だったんです。
ほかにも、クラフトビールを通じてこれまで多くの出会いがありました。ビールは確実に、人と人、地域をつないでいる、そう感じます。
これからも尾道のクラフトビールが地域を活気づけてくれることでしょう。
尾道あづみ麦酒(ビール)醸造所のデータ
名前 | 尾道あづみ麦酒(ビール)醸造所 |
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住所 | 広島県尾道市高須町4754-1 |
電話番号 | 0848-38-2221 |
駐車場 | あり |
営業時間 | 午前9時〜午後5時 |
定休日 | 土、日、祝日 第1・第3土曜は営業 |
支払い方法 |
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ホームページ | 尾道あづみ麦酒醸造所 |