鞆の浦から全国へ、やさしいお宿が広がってほしい。「お宿と集いの場燧冶(ひうちや)」代表、羽田知世さんインタビュー
羽田
ありがとうございます。そう言ってもらえるとうれしいです。
ここはもともと、90歳のおばあさんが一人暮らしをしていたおうちなんです。
わたしの母が運営するグループホーム「さくらホーム」のサロンに参加されていたおばあさんで、ホームのスタッフも声をかけたりお茶に誘ったりと、いわゆる「ご近所さん」としてお付き合いのあったかたでした。
そのおばあさんが亡くなられたあと、家を相続されたかたが「さくらホームで活用してくれないか」と話しを持ち掛けられて、土地ごと購入しました。
ご近所さんの縁というか、つながりがあってのことでしたね。
羽田
引き受けた当時は、そこまで考える余裕がなかったですね。
家財道具ごと家を引き受けたので、まずは家の片づけに数か月かかりました。
鞆の浦の地域の人やボランティアの大学生に手伝ってもらいながら、どう活用したらいいか考えていました。
「この家が鞆の浦の人にとってどんな場所になったらうれしいか」
「地域の人にとって、ここができてよかったと思える場所になるにはどうしたらいいか」
実際、鞆の浦に住む150人以上の人に聞いてみたんです。
そしたら、「気軽に泊まれる場所がほしい」という意見が多く上がりました。
ちょうど鞆の浦のホテルが廃業したばかりで、お祭りや盆暮れに子供や孫、親族が泊まれる場所がなくなってしまった頃で、みんな困っていたんです。
羽田
う~ん、そうですね。
ずっと母がリハビリの仕事をしていたり、20歳のときに介護施設「さくらホーム」を始めたこともあって、自然と介護や福祉に興味というか、そういう環境だったんです。
27歳のときに、ワーキングホリデーでデンマークに行ったことも大きいです。
「ゆりかごから墓場まで」という言葉があるんですけど、デンマークではどうやってそのスローガンを実現しているのかとても興味があったんです。
デンマークに行ってとても驚いたことは、障がい者と健常者の垣根や壁がないことでした。
日本だと障がい者と健常者が日常的に交わることってなかなかないし、そもそも環境が整っていなかったり、なかなか難しいですよね。
ところがデンマークでは、人と人が対等で、とても「生きやすそうだな」と感じました。
重度の脳性麻痺がある人が先生だったり、お年寄りも施設の暮らしを楽しんだり、ちょっと衝撃でしたね。
燧冶も、人種や性別、障がいのあるなしに関わらず、みんなが安らげる空間にすることが理想だな、と考えています。
羽田
わたしがこの古民家を「こうしたい、こんな宿にしたい」という思いに共感してくれた人たちと、「やさしいお宿プロジェクト」を立ち上げました。
福山、尾道在住の、さまざまな職種の5人で構成しています。
まず、コミュニティデザイナーのかたに、わたしの思いを具現化してもらうことから始めました。
メンバーと話すうちに、「誰でも泊まれるお宿」というコンセプトが生まれました。
年齢、性別、国籍問わず、誰もが当たり前の生活をおくれるように、という「ノーマライゼーション」の考えからきています。
そこから庭師や古民家のリノベーション、ホームページ、ロゴなど、すべてプロジェクトメンバーが作り上げてくれたんです。
羽田
そうですね、鞆の浦は近所付き合いや町内会などの関係がとても密、しっかりしている土地だと思います。
秋のお祭りや運動会はもちろん、ふだんからご近所のきずなが強く、コミュニティに力があるんです。
鞆の浦まちづくり塾では、広島県内だけでなく全国からも塾生が集まりましたが、そこでよく耳にしたのは「地域でどう支えあえばいいかわからない」という声だったんです。
いまは敬遠されがちな「コミュニティ力」が、鞆の浦にはまだ息づいています。
鞆の浦に来て、町を歩いて、人のおせっかいに触れて(笑)、地元の力を借りること、互いに支えあうことを少しでも体感してもらえたらいいですね。
まちづくりを通して、鞆の浦に移住してくれた人もいるんですよ。
鞆の浦を好きになって、次の地域を支える担い手になってもらえたらうれしいです。
羽田
まだ始まったばかりなので、多くの人に「やさしいお宿」の存在を知ってもらいたいです。
介護施設が運営するお宿なので、入浴や排せつなど、介護のことならお手伝いできますし、介護する人、される人が気兼ねなく宿泊できるお宿として広まってほしいです。
そこから、「燧冶」のようなやさしいお宿が全国に広まってくれたらとてもうれしいですね。
それと、障がい者や引きこもりの人が働ける場所、社会とつながりを持つ場所になったらいいな、と考えています。
さくらホームでは、小学生から高校生までの障がい児の放課後等デイサービス「さくらんぼ」があります。
いまは、さくらんぼの子と一緒に燧冶でケーキを作ったり施設の利用者さんにお茶を出す活動をしているのですが、将来的にその子たちが働ける場所になれたらなぁ。
みんなが支えあって働ける、交流できるお宿になれたらうれしいですね。
おわりに
「鞆の町がとても好きです」と話してくれた、代表の羽田さん。
「海があって港があって、ご近所のつながりがあって。旅行でもつい、海の見えるところに行っちゃうんですよね。この土地に生まれてよかったな」
本当に鞆の浦が好きで、町の人が好きで。
お話を聞いていると、その思いがにじみ出てくるように感じて素敵でした。
全国に燧冶のようなお宿があったら。誰もが泊まれるお宿が増えてくれたら。
ちょっと想像してみるだけで、なんだか未来がうれしく、楽しいものに感じませんか。
こんなやさしいお宿がある鞆の浦は、とても素敵で良いところだな、と思いました。
そしていつの日か、暮らすように泊まってみたい、鞆の風を感じてみたいです。
鞆の浦・お宿と集いの場 燧冶(ひうちや)のデータ
名前 | 鞆の浦・お宿と集いの場 燧冶(ひうちや) |
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所在地 | 広島県福山市鞆町後地797-3 |
電話番号 | 084-982-6623 |
チェックイン | 午後3時~午後7時 |
チェックアウト | 午前10時 |
支払い方法 |
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施設情報 | 1階 ユニバーサルルーム(バリアフリー)(定員3名) 2階 大部屋(最大6名) ツインルーム(定員2名) 一棟貸しあり(最大10名) |
お風呂 | 1階ユニバーサルルームは専用シャワー付き 2階大部屋、ツインルームは共同 |
Wi-Fi | あり |
駐車場 | あり 7台 |
ホームページ | 鞆の浦 燧冶 |